腸内環境が悪いと6つの異変が体におこる
「私たちの健康に、腸内環境は非常に大事!」ということはいろいろなところで耳にするものの、実際に腸内環境が悪いと何が問題なのか、詳しく把握できていますか?
「お腹が痛い」とか「気持ちが悪くなる」といった軽微な症状から、「便秘」や「下痢」など胃腸にかかわる病気、さらには「うつ病」や「大腸がん」などの重篤な疾患まで、腸内環境が悪いというだけで非常にさまざまな問題が私たちの身体に起きるのです。
腸内環境が悪いと、私たちの身体はどんな風に悪くなってしまうのか?詳しくご説明します。
記事の目次
腸内環境が悪い時、私たちの身体にはさまざまな異変が
腸内環境の良し悪しは、腸内に生息する腸内細菌のバランスによって判断することができます。
腸内細菌は善玉菌・悪玉菌・日和見菌という3種に大別され、それらが2:1:7という割合で存在する時、腸内環境は”良い状態”と定義できるのです。
逆に、この腸内細菌のバランスが崩れてしまった時こそ腸内環境が”悪い状態”。
腸内環境が悪くなる原因としてはさまざまなことが挙げられますが、毎日の食事の中で肉類や揚げ物が増えたり、忙しくて睡眠不足気味になったり、ちょっとした生活習慣の乱れによって腸内環境のバランスが崩れてしまうことも。
腸内環境が悪くなると、私たちの身体にはさまざまな異変が発生します。
腸という臓器は「第2の脳」と呼ばれるくらい、非常に複雑で多岐に渡る機能を担う重要な器官。その腸の調子が悪くなるということは、私たちが考えている以上に、身体にさまざまな悪影響を及ぼすのです。
大腸がんへの罹患リスクが高まる!
近年、大腸がんを患って死亡する日本人が増加傾向にあります。
この原因の1つと考えられているのが食習慣の変化で、具体的には肉類などに多く含まれる動物性脂肪や動物性タンパク質の過剰摂取と、相対的に食物繊維の摂取量が減少していること。
肉類など消化に時間のかかる食物の摂取量が増えると、結果的に腸内に消化しきれない食物が長時間留まることになり、腐敗していきます。
これらの腐敗物質は腸内細菌のうち悪玉菌の大好物、悪玉菌が増殖して腸内環境を悪い状態にしてしまいます。
また食物繊維の摂取は排便を促す作用があるのですが、この摂取量が減少すると排便が起こりにくくなり、このこともまた腸内環境悪化の一因となるのです。
このような食生活やそれに伴う腸内環境の変化が、腸壁の粘膜細胞のを傷つけたり、がん化の原因になると考えられています。つまり、腸内環境の良し悪しは大腸がん罹患リスクのバロメーターとも考えられるのです。
免疫力が下がり、病気にかかりやすくなる!
私たちの身体にある免疫細胞は体外から侵入する細菌やウィルスを戦うための重要な細胞で、その7割が腸内に存在していると言われています。
ですから、腸内環境が悪くなると免疫細胞の数が減少するなど、免疫力の低下を引き起こす可能性があるのです。
免疫力が下がることで細菌やウィルスへの抵抗力が低下し、風邪をひきやすくなるほか、さまざまな部位で炎症などを引き起こします。例えば、腸内環境が悪い人に起こりがちなのが口内炎。
口腔内には常に多種多様な細菌が存在しており、口の中の粘膜は常に細菌の脅威にさらされています。腸内環境が悪化して免疫細胞が減少すると、口腔内の粘膜細胞の免疫力も低下、口内炎のような炎症を発生させるのです。
もしあなたが慢性的な口内炎や、体調不良に悩まされているようであれば、それは腸内環境が悪い状態になっているからかも知れません。
便秘になる!
一般的に3日間、便が出ていない状態と定義される便秘。重篤な疾患ではないとは言え、悩まされている人も多いかと思います。この便秘になる要因にも腸内環境が深く関連しているのです。
排便は、まず口から摂取した食物が胃で分解され、次に小腸で栄養分が、さらに大腸で水分が吸収されて、吸収されずに残ったものが肛門から体外に排出されるという流れで起こります。
また大腸からの排出には、大腸の蠕動運動と呼ばれる作用が重要な役割を果たしています。
悪玉菌が増殖し、相対的に善玉菌が減少した腸内環境が悪くなると、大腸の蠕動運動の作用が弱くなり、排便が起きにくくなるのです。
加えて、悪玉菌が増殖しているということは動物性タンパク質や動物性脂肪など消化されにくい食物を過剰摂取している可能性も。消化・不良に時間がかかるとさらに排便が遅くなり、便秘状態へと陥ってしまうのです。
腸内環境が悪くなり、便秘になることを防ぐためには、普段から自分の便の状態を把握しておくことが大切。理想的な便の状態は、バナナに似た形状で色は明るい茶褐色、硬すぎず柔らかすぎない状態です。
下痢気味であったり、黒ずんでて硬い便であれば、それは腸内環境が悪くなっているサイン。普段から便の様子を気にかけて、良い腸内環境を維持することは便秘防止の第一歩です。
気分が落ち込んだり、ひどい場合はうつ病になる!
私たちの気分や精神状態にも、実は腸内環境の良し悪しが影響しています。そのカギとなるのが神経伝達物質の1つであるセロトニンが腸内で産生されていること。
人の“幸福感”に深く関連する脳内ホルモンの1つであるセロトニンは9割以上が腸内で産生されており、腸内環境が悪くなるとこのセロトニンの量が減少してしまうのです。
セロトニンには不安やストレスを抑え、幸せな気分をもたらす働きがあります。これが不足することで気分の落ち込み、情緒不安、またひどい場合はうつ病などを発症する恐れもあるのです。
腸内環境が悪くなるきっかけとして、食事習慣の変化のほか、疲労や精神的なストレスなどが挙げられます。
これは、疲労やストレスにより私たちの自律神経のうち、睡眠時やリラックスしているときに作用する副交感神経の働きが悪くなるから。
副交感神経は大腸の蠕動運動とも関係していて、自律神経が失調し、副交感神経の働きが鈍くなると、排便が起こりにくくなって悪玉菌が増加、腸内環境が悪化するのです。
腸内環境が悪くなるとセロトニンの産生が滞り、精神的な不安が増加、もともとあった疲労感やストレスがいつまで経っても改善されないという悪循環に。腸が悪くなると、幸せな気分すら奪われてしまうのです。
このような状態になるのを防ぐためには、自律神経をケアして副交感神経が最大限作用するよう、十分な休息・睡眠をとったり、できるだけリラックスすることに努めるほか、セロトニンが十分に産生されるように、善玉菌を含む食事を積極的に摂るなどにより腸内環境を改善させることが重要なのです。
肌トラブル!
腸内環境は肌の状態とも関連があり、腸内環境が悪くことはお肌にとっても大敵。
これは悪玉菌が増殖して悪化した腸内ではさまざまな有害物質や腐敗物質も増加しており、これらが腸から吸収され、血管を通して全身の肌に運ばれてしまうから。
これらの物質が皮膚の細胞内で炎症などを発生させ、肌トラブルや皮膚炎を引き起こすのです。さらに、皮膚まで運ばれる腐敗物質の中には悪臭を放つものもあり、体臭がきつくなるなどの症状が出る場合もあります。
腸内環境が悪くなると、肌や体臭など美容面でも悪影響を引きこすのです。
また肌荒れなどの美容面にとどまらず、腸内環境の良し悪しはアトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどの病気とも関連があります。
これは、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症と深いかかわりのある「IgE抗体」が腸内で産生されているから。
IgE抗体とは、外部から体内に侵入してくるウィルスや細菌などの異物を攻撃するための抗体と呼ばれる免疫物質の1つなのですが、このIgE抗体は腸内環境が悪くなると必要以上に産生されてしまいます。
多いにこしたことはないと思われがちな抗体ですが、IgE抗体は敵となるウィルスや細菌といった抗原が結合する過程においてヒスタミンというかゆみや痛みの原因となる物質を放出します。
このためIgE抗体が過剰に存在すると、ヒスタミンも過剰に産生されてしまうのです。
もちろん体質的にIgE抗体の量が多い人もいて、それが皮膚炎やアレルギーを引き起こす場合もありますが、体質的には問題無いのにアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを突然発症したといった場合には腸内環境の悪化、それによるIgE抗体の増加が原因になっている可能性が考えられるのです。
花粉症
日本人の多くが悩まされている花粉症。実はこの花粉症にも腸内環境の良し悪しが関係しているのをご存知でしたか?
花粉症の発症、悪化のメカニズムはアトピー性皮膚炎や食物アレルギーと同様で、花粉症にもIgE抗体がかかわっているのです。
通常、私たちの身体に害を及ぼさない花粉に対して、過剰な免疫反応を起こし、鼻水やくしゃみといった花粉症の症状を引き起こすのは、過剰に産生されたIgE抗体が原因となっている可能性が大きいのです。
食事の変化や疲労・ストレスなどによって腸内環境が悪くなることで、花粉症を発症しやすくなったり、花粉症の症状を重篤化させる危険性があるのです。
したがって、花粉症に悩んでいる方もケアする必要があるというのが、腸内細菌のバランス、そして腸内環境の良し悪しなのです。
腸内環境が悪くなるということは、私たちの健康的な生活に重大な影響を及ぼす可能性があるということ、お分かりいただけましたか?
逆に、腸内環境を日頃からケアしておくことは、これらの病気や不健康な状態を未然に防止することにつながります。腸内環境が悪くなるのを防ぐためには、質の高い睡眠、適度な運動のほか、食事の内容もとても重要。
乳酸菌・ビフィズス菌などの善玉菌を直接増やすことができるヨーグルトや、穀物や豆類、海藻類など食物繊維を多く含んだ食品・野菜を積極的に摂取するなどして、腸内環境が悪くならないようにケアしていきたいですね。
この記事の筆者
腸内細菌博士
1977年生まれ。京都大学・大学院にて分子細胞生物学を専攻。腸による脂質代謝や栄養吸収を細胞レベルで研究、また腸に関連する疾患の予防、治療方法の基礎研究に従事。
ほか、腸の働きと関連性のある自律神経系や免疫システムについては、現在も米国科学雑誌等で最新研究動向をウォッチ中。現在、米国にてMBA留学中。