腸内環境とセロトニンの関係性
腸内環境が悪くなると、便秘になったり、倦怠感が増したり、肌荒れが起きたりと、身体の健康にとって良くないばかり。
ところが、腸内環境の悪化は健康な身体だけでなく、あなたの幸せな気分まで奪っているというのをご存知でしたか?
その原因は腸で産生される「セロトニン」という神経伝達物質の影響。人はセロトニンが不足すると不安を感じたり、精神的に不安定になるのですが、このセロトニン、実はその9割以上が腸管で作られているのです。
腸内環境が悪化してセロトニンの産生が滞ったら…。そうなんです、せっかくの幸せが消え去ってしまうかも知れないのです。
不安やうつ病と深い関連がある「セロトニン」は別名“幸せホルモン”
脳が活動する時、脳内の神経の間で信号の伝達が行われます。この伝達の担い手となるのが神経伝達物質または脳内ホルモンと呼ばれる物質です。
脳内には何十種類もの脳内ホルモンが存在していると考えられていますが、中でも重要な役割を果たしているのが、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの3つで、これらは三大神経伝達物質と呼ばれています。
この3つの脳内ホルモンの働きはいずれも、感情の変化など人の精神状態に深く関連していることが分かっています。
「楽しい」「嬉しい」といった感情の時に分泌されるドーパミン
何かに成功したり、他人から褒められて喜んだりする時、脳内ではドーパミンという神経伝達物質が分泌されています。
このドーパミンは快楽を感じる神経系のスイッチとしての役割を果たしており、ドーパミンが分泌されると人は快楽を感じるのです。
この結果、さらに快楽を得ようとして意欲が高まったり、学習能力が向上したり、記憶力が向上するなど、ドーパミンが分泌されることで気持ちが前向きになるといった作用があります。
分泌されればされるほど良いかと言うと、ドーパミンが過剰に分泌されると攻撃的になったり、幻覚や幻聴といった症状が現れるようです。適度にドーパミンが分泌されることは、人が生存を続けていく上で必要なこととされています。
ストレスホルモンの一種であるノルアドレナリン
強い恐怖や緊張、不安などのストレスに反応して脳内に分泌されるのがノルアドレナリン。
人だけでなく動物の脳内にも存在している原始的なホルモン物質で、分泌されることにより心拍数や血圧を上昇させ、身体を興奮状態にし、集中力や意欲が高められます。
動物が外敵の危険を察知して警戒感を強めるような時に分泌されるのがこのノルアドレナリン。
人間の場合も、強い恐怖を感じたり、驚いた時に分泌され、交感神経を刺激して身体を覚醒させ、ストレスと闘う、もしくはストレスを回避しようとするのです。
外部の脅威に対する強い反応を引き起こすことから、ノルアドレナリンは別名“怒りのホルモン”などとも呼ばれています。
幸せな気分、癒し・リラックス効果をもたらすセロトニン
ドーパミンやノルアドレナリンがある種の攻撃的なホルモンであるのに対して、セロトニンは攻撃的になるのを抑え、精神的な安らぎや落ち着きをもたらす効果があると言われています。
逆にセロトニンが脳内で分泌されにくくなると暴力的になったり、うつ状態を引き起こします。実際にうつ病など精神疾患をもつ人の脳内ではセロトニン濃度が著しく低下しているそうです。
それ以外にもセロトニンの不足は、睡眠の質を低下させ、慢性的な睡眠不足や倦怠感の原因にもなります。このため、セロトニンが安定的に分泌されるように身体をコントロールすることは、幸せな生活に欠かせないことなのです。
さらにこのセロトニン、そのほとんどが腸で生産される上、腸内に90%、血中に8%が存在し、脳内で作用するのは全身のセロトニンのうちわずか2%とのこと。
腸で生産されるセロトニンを血液を介して脳に安定的に届けるためには、正常な腸の働き、つまりバランスの保たれた腸内環境が必要なのです。
セロトニンは腸で生産される
脳内ホルモンの1つであるセロトニンは、必須アミノ酸の1つであるトリプトファンを原料にして体内で産生されます。
必須アミノ酸とはタンパク質を作り出すために必要な20種類のアミノ酸のうち体内で合成することができない9種類を指します。
トリプトファンは体内で合成されないため、主に肉類(特に牛や豚、鶏のレバー)や魚介類(特にまぐろやかつお)、豆類、乳製品など、トリプトファンが含まれる食物から摂取する必要があるのです。
食物に含まれるトリプトファンは、食物のタンパク質内に存在します。食物として摂取したタンパク質は腸で消化・分解され、トリプトファンが分離されるのです。
分離されたトリプトファンは、ビタミンB6などの働きで代謝されセロトニンへと変化していきます。このため、セロトニンの多くが腸内に存在しているのです。
もし腸内のセロトニン量が低下したことが分かったからと言ってトリプトファンを過剰に摂取すると、肝硬変などの肝臓に重い疾患を引き起こす可能性があることが分かっています。
ですので、セロトニンを増やすことを目的にトリプトファンを過剰摂取することは避け、できるだけ毎日適量の摂取を継続するのが良いとされています。
腸内環境が悪化するとセロトニンの生成が滞るメカニズムとは
腸内環境とは、主に大腸内部の環境を指し、善玉菌や悪玉菌、日和見菌など腸内細菌がバランスよく存在しているかどうかにより良し悪しが左右されます。
腸内環境が悪化する要因としては、食生活の変化(動物性脂肪の過剰摂取など)、生活環境の変化(睡眠不足や精神的なストレスなど)が考えられ、正常時に比べて善玉菌の存在数が減少し、悪玉菌の存在数が増加するなどといった腸内環境の変化を引き起こします。
こうした生活環境やそれに伴う腸内環境の変化はセロトニンの生成にも影響を及ぼします。
例えば、食生活の変化に伴ってタンパク質の摂取量が減ると、セロトニンの原料となるトリプトファンの摂取量が減り、結果セロトニンの生成量も減少することになります。
また、睡眠不足などによって腸の活動力が弱まると便秘などの症状を引き起こしたり、免疫力が弱まり風邪などをひきやすくなりますが、これによる食欲減退や消化・分解力の低下もセロトニンの減少につながる可能性があります。
食生活や生活環境の変化が腸内環境に影響を及ぼし、セロトニンの生成が滞ることで気分も低下し、生活そのものに悪影響を及ぼすという悪循環が繰り返されてしまう恐れがあるのです。
このように幸せホルモン「セロトニン」を体内で安定的に作り出すことは、健康的で楽しい毎日に不可欠なことで、さらにそのためにも良い腸内環境を保ち続けることがとても大切なのです。
毎日の生活の中でできるだけ食事の内容や腸内環境を気にかけ、「セロトニン」とともに幸せな毎日をお過ごしください!
この記事の筆者
腸内細菌博士
1977年生まれ。京都大学・大学院にて分子細胞生物学を専攻。腸による脂質代謝や栄養吸収を細胞レベルで研究、また腸に関連する疾患の予防、治療方法の基礎研究に従事。
ほか、腸の働きと関連性のある自律神経系や免疫システムについては、現在も米国科学雑誌等で最新研究動向をウォッチ中。現在、米国にてMBA留学中。