腸内フローラとは腸内細菌の生態系
便秘に悩む日本人は昔よりもずっと増えていると言われています。女性に多い印象のある便秘ですが、今では男性にも多くなっており、日本人全体で500万人もの便秘人口がいると言われているそうです。
そういったことから世間の腸に対する意識が高まりつつありますね。おなかの調子を整える食材やトクホも多くなってきました。
腸の調子には腸内細菌の状態が大きく関係しています。「腸内フローラ」という言葉がテレビや雑誌で注目されていますが、腸内フローラとはどういったもので、腸の調子とはどのように関係しているのでしょうか?
また、腸内細菌や腸内環境といった言葉と、腸内フローラを混同している方も多いのではないでしょうか?今回は、腸内フローラとはなにか、ということについてご紹介していきます。
記事の目次
腸内フローラとは
腸内フローラとは、腸内の細菌が作り出している生態系のことです。
私達の腸内にはおよそ100兆個を超える腸内細菌が棲みついています。
腸内細菌は、腸内で集合体を作り、独自の生態系を形成しています。
この生態系のことを腸内フローラ(腸内細菌叢)というのです。
腸内細菌が作る花畑
腸内フローラの日本語名称は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」です。
この「叢」という言葉には草むらという意味があり、「フローラ」とは英語でお花畑を意味します。
腸内を電子顕微鏡で観察すると、そこには無数の腸内細菌が集まっている様子が確認できます。
その様子がお花畑に似ているため、「腸内フローラ」という名称が定着しました。
腸内細菌・腸内環境との違い
腸内フローラと混同されやすい言葉として「腸内環境」と「腸内細菌」があげられます。
三つの言葉の意味の違いは以下のとおりです。
・腸内フローラ:腸内細菌が作り出す生態系のこと。腸内細菌は相互に影響し合いながら生きている。
・腸内細菌:腸内フローラを構成する細菌のこと。乳酸菌、ビフィズス菌、大腸菌など全種で1000種類とも言われている。
・腸内環境:腸内フローラのバランスのこと。善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7が理想
これらの言葉は似ているようで意味が異なりますので、正しく理解し腸内環境の知識を深めて下さい。
腸内フローラは腸の壁にある
腸内細菌が作る生態系である腸内フローラは、腸のどのあたりにあるか想像できますか?
腸内フローラが存在するのは小腸と大腸の腸壁です。
腸は食事から栄養を吸収する役割を担っています。
その腸の腸壁を広げると、小腸と大腸を合わせた面積はテニスコートより広いです。
その腸壁を覆うように腸内フローラは広がっているのです。
そこにいる腸内細菌は大きく分けて3タイプに分けることが出来ます。
3タイプの菌がいる
腸内フローラを構成している腸内細菌は3つのタイプに分類することが出来ます。
3つのタイプはそれぞれ、善玉菌、悪玉菌、日和見菌と言います。
大まかに言えば、善玉菌は腸内フローラに良い影響を与え、悪玉菌は悪い影響を与えます。
日和見菌は、善玉菌と悪玉菌の中間で、勢力が強いどちらか一方の菌に味方します。
腸内にはどのような菌がいるのか?
腸内フローラを構成する菌は数百から千種類ほどいます。
ここでは、そうした菌の中から、代表的な菌をご紹介します。
名称 | 菌タイプ | 特徴 |
乳酸菌 | 善玉菌 | 糖を分解して酢酸を生成し、腸内を酸性の状態に近づける。 |
ビフィズス菌 | 善玉菌 | ヨーグルトなどに含まれていることで馴染み深い善玉菌。乳酸菌同様腸内のを酸性の状態に近づける。 |
大腸菌 | 悪玉菌(一部の種類は日和見菌) | 種類によって有益か有害か分かれる。病原性のある菌は食中毒などの危険性がある。 |
ウェルシュ菌 | 悪玉菌 | ガンの原因にもなりうる悪玉菌。これと言った有益性を持っていないことから最悪の菌と呼ばれることも。 |
バクテロイデス | 日和見菌 | 肥満防止の効果があることがわかっている。また免疫力の向上にも一役買っている。 |
レンサ球菌 | 日和見菌 | 通常時は無害であるが、免疫力が低下すると、喉の痛みや腫れを引き起こす。 |
このように、腸内を構成している腸内細菌は、各々違った特徴を持っています。
種類によっては、一定の条件を満たすと、有害に作用する菌もいます。
理想のバランスは2:1:7
腸内環境における腸内細菌の割合は、善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7であることが理想です。
重要なのは、善玉菌の勢力が、悪玉菌の勢力を上回っていることです。
日和見菌は、善玉菌と悪玉菌のうち勢力の強い方に味方する習性があります。
ですので、この状態であれば、腸内環境が悪化する原因である悪玉菌の増殖を抑えることができます。
腸内フローラが乱れると健康を害する
腸内フローラのバランス(腸内環境)が乱れると、健康に悪影響がでます。
バランスが乱れるとは、先程ご紹介した善玉菌2:悪玉菌1のバランスが崩れることです。
善玉菌量<悪玉菌量の状態になると、日和見菌は悪玉菌に味方するようになります。
すると、腸のぜん動運動が低下したり、免疫力が落ちたりしてしまいます。
腸のぜん動運動が低下し便秘になると、腸内の発酵が進み、悪玉菌がさらに増殖するという悪循環が出来上がります。
このように、腸内フローラは私達の健康に大きく影響し、場合によっては病気を引き起こす原因になることもあります。
病気との関係性
近年の研究から、腸内フローラが様々な病気と、関係していることが分かってきました。
まだ研究段階のため明らかになっていることは少ないのですが、ここでは腸内フローラと病気の関係についてご紹介します。
腸内フローラと関係のある病気や、健康への悪影響は以下の表のとおりです。
症状 | 解説 |
肥満 | 腸内フローラが乱れて、バクテロイデスなど肥満を防止する性を持つ菌が減ってしまうことが原因 |
肌荒れ | 悪玉菌の増殖によって、腸内で発生した有害物質が、血液に溶け込み全身をめぐることで肌にも悪影響が出る。 |
アトピー・花粉症 | 腸内細菌が、免疫細胞の暴走を抑える制御性T細胞の増殖を助けている。 |
うつ病 | 脳と腸には、二つを結ぶ「迷走神経」という特別な神経回路があり、腸内細菌は、セロトニンやドーパミンと言った神経伝達物質を使って脳に信号を送ったり、腸内細菌には神経細胞を刺激したりする能力がある。 |
自閉症 | コミュニケーション能力の低下を引き起こす、自閉症の原因物質の1つとして考えられている4EPSを腸内細菌が生成している。 |
動脈硬化 | 腸内細菌が「レシチン」を分解するときに生成するTMAが、肝臓で動脈硬化の原因物質であるTMAOに変化する。 |
ガン | 日本で発見された「アリケア菌」という腸内細菌が、細胞老化を引き起こし、それがガン発症の一要因になっている。 |
糖尿病 | 腸内フローラが乱れ、肥満を予防する短鎖脂肪酸の生産能力が低下すると、糖尿病を発症するリスクが高まる。 |
腸内環境の整え方
腸内フローラが健康に大きな影響を与えていることがお分かりいただけたと思います。
そうなると気になるのは、どうすれば腸内フローラを良い状態に整えられるかです。
腸内フローラが乱れる主な原因は、食事のバランスが偏ることで腸内環境が悪化し悪玉菌が増殖するためです。
それを防ぐために、普段の食事を見直し、腸内環境のバランスを整えましょう。
食物繊維とオリゴ糖を含んだ食品を食べる
食物繊維とオリゴ糖は、腸内で善玉菌のエサになります。
人間は、食物繊維を消化する酵素を持っていないため、大腸まで届きます。
そうした食物繊維は、善玉菌のエサとなり、その活動を活発にさせるのです。
また、善玉菌はオリゴ糖などの糖を分解するときに乳酸や酢酸を生成します。
乳酸や酢酸は、腸内を酸性の環境にし、悪玉菌の増殖を抑えてくれます。
発酵食品を食べて善玉菌を取り入れる
納豆や漬物、キムチと言った発酵食品は、発酵に微生物を使います。
それらの微生物は、腸内に入ることで腸内細菌として腸内環境を整えるのに役立っています。
具体的には、既存の腸内細菌のエサになったり、便のかさ増しにつながります。
体外から摂取した微生物は、生きて腸まで到達できるか疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
たしかに、ほとんどの微生物は、胃酸や胆汁などによって腸に届く前に死んでしまいます。
しかし、死んだ細菌も、先ほどご紹介した作用を持っているので問題ありません。
普段の食事に、発酵食品などの善玉菌を含むものを取り入れることは腸内環境を整えることにつながるのです。
腸内フローラを食事で改善する方法については、以下の記事で詳しく紹介していますので参考にしてください。
タンパク質や脂質のとりすぎに気をつける
普段の料理から、タンパク質や脂質を取りすぎると腸内フローラの乱れにつながります。
タンパク質や脂質の取り過ぎは、腸内の腐敗を促進し、腸内環境を悪化させます。
そうした環境では、善玉菌の数、活動量が低下し、腸内環境のバランスが崩れてしまします。
近年、日本人の食習慣が欧米化していることで、以前よりも肉類の摂取量が増加しています。
タンパク質や、脂質の摂取は食事に欠かせないことですが、摂りすぎは厳禁です。
タンパク質の1日の摂取量は20~30グラム程度です。
タンパク質は、肉類以外にも、魚や大豆など様々な食品から摂れますので、食材のバランスにも気を使うと良いでしょう。
腸内フローラを悪化させる食べ物について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
整えることで得られる効果
腸内フローラを整えることで様々な効果が得られます。
腸内フローラと病気や健康との関係性についてはさきほどご紹介しました。
腸内フローラが良い状態になっていれば、先ほどの紹介した病気を防いだり、健康へ良い影響が得られます。
ここでは、それら以外で期待できる効果をご紹介します。
肌の若返り効果
腸内細菌の中には、肌を若返させる物質を生成する種類がいることが分かっています。
その物質とは、「エクオール」といい、シワを取り除くなどの効果が報告されています。
エクオールを使った実験では、50~60代の女性約90人を、エクオールを与えるグループと、与えないグループに分けて効果を検証しました。
すると、エクオールを与えたグループには、シワが浅くなるという効果が現れたのです。
腸内フローラと美肌・美容の関係については、以下のサイトで詳しく紹介していますので参考にしてください。
便秘の解消
また、腸内フローラの状態を整えることは、便秘の解消に繋がります。
善玉菌の多い腸内では、腸のぜん動運動が活発になり、排便が促されるのです。
便秘になると、腸内の腐敗が進み、様々な有害物質が生成されます。
そうした有害物質は、血液に染み込んで全身に送られてしまいます。
有害物質が全身に送られることで、様々な悪影響が出ますので、腸内フローラの状態を整え便秘の症状を改善することは、とても大切です。
ダイエットしやすい体質になるかも
腸内には、肥満を防ぐ腸内細菌が存在してます。
それは、腸内フローラと短鎖脂肪酸の関係性のところで話に出てきた、短鎖脂肪酸を作る腸内細菌のことです。
肥満は、肥満細胞が細胞内に異常に脂肪を蓄えることで起こります。
短鎖脂肪酸は、脂肪細胞が必要以上に脂肪を蓄えることを防いでくれるのです。
短鎖脂肪酸を作る腸内細菌は、食物繊維をエサとしていますので、意識的に食物繊維を摂取することが大切でしょう。
腸内環境を整えて、それらの腸内細菌が活発に活動できる環境を作ることで、痩せやすい体質に近づけるでしょう。
腸内フローラと肥満の関係については、以下の記事で詳しく紹介していますので参考にしてください。
※参考:腸内フローラ10の真実 主婦と生活社 2015年
検査する方法
ここまでの話から、自分の腸内フローラがどういう状態なのか知りたいと思った方がいらっしゃるのではないでしょうか?
腸内フローラを検査する方法は、大きく分けて3つありますが、ここでは一例として、腸内フローラ検査キットを使用する方法をご紹介します。
腸内フローラ検査キットは、インターネットから購入し、自宅に届く専用容器に自分の便を入れて送り返すだけで、腸内フローラの状態を検査できます。
下の表は、腸内フローラ検査キット「マイキンソー」で検査できる項目です。
マイキンソーで検査できる6つの項目
- 太りやすさ
- 腸のタイプ
- 菌の多様性
- 主要な細菌の役割
- 腸内の菌構成
- 腸内環境の推移
価格は2万円ほどですが、検査は理化学研究所などの専門機関が担当しており、結果への信頼性は高いです。
腸内フローラを調査する方法には、検査キットを使用する以外の方法もあります。
ご自身の腸内フローラを調査する方法について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
腸内のバランスを決めるのは自分自身
生まれたての赤ちゃんは完全な無菌状態ですが、生まれるとすぐに大腸菌などのさまざまな菌が入り込み、そして母乳から乳酸菌などの身体に良い菌をお母さんからもらいます。
そして離乳食が始まると、食べるものや周囲の環境などによって腸内フローラのバランスが決まっていきます。腸内に住んでいる菌は人それぞれ異なり、つまり腸内フローラも人それぞれです。
けれど小さい時に作られた腸内フローラのバランスがずっと維持される訳ではないんです。
健康な人であれば、腸内フローラのバランスは悪玉菌よりも善玉菌が優勢となっているのですが、さまざまな要因で悪玉菌が優勢となってしまうことがあります。
どんなに規則正しい生活をしていても、赤ちゃんの時にはたくさんいた善玉菌は年齢と共に減ってしまい、悪玉菌が増えやすくなってしまうので年々悪玉菌が優勢になりやすくなってしまいます。
それだけではなく、乱れた生活を続ける、脂肪分が多く発酵食品が少ない欧米型の食事を続ける、ストレスが多いなどの要因によって悪玉菌はどんどん増えてしまいます。
個々の腸内フローラの特徴は小さい頃に決まりますが、その後のバランスを決めるのは私たち自分自身の生活によるものなんですね。
腸内フローラの質によって体質や病気にまで影響する?!
腸内細菌が関わるのは便通やそれに関わる体調や体臭と思われてきましたが、最近ではもっとさまざまな全身の状態に関わることがわかってきました。
例えば太っている人や糖尿病の人の腸内フローラは、太りやすく糖尿病になりやすい腸内フローラとなっているそうです。
それらの腸内フローラはもともとあった訳ではなく、乱れた食生活から形成されたものです。
そういった悪影響を与える腸内フローラがあることで余計に健康になりにくくなってしまうという悪循環に陥ってしまう可能性があるんです。
他にも肌質やうつ病など多くの全身の状態と腸内フローラは密接に関わっている可能性があり、日々研究が行われています。
身体に存在すると痩せるという夢のような腸内フローラの研究もあるようです。クリステンセネラセエという菌の種類がいると、痩せやすくなるようですが今のところその菌を腸内に住まわせる方法はわかっていないようです。
クリステンセネラセエがいる腸内フローラを育てる方法がわかれば肥満やそれに伴う病気の人も少なくなるかもしれませんね。
まとめ:腸内環境を自分で育てて体調を管理する
便秘やおなかの不調で悩む人以外にも、全身にさまざまな悩みを持っている人にとって腸内フローラは大きな影響を与える存在である可能性があります。
腸内フローラのバランスが崩れると免疫力が低下するので、風邪をひきやすいという人は腸内環境を整えたほうがいいです。
生まれもっての腸内細菌や腸内フローラの割合も遺伝子によってある程度は決まっているようですが、多くは日々の生活によって腸内フローラのバランスが決まることがわかっています。
腸内フローラのバランスは刻一刻と変わっていってしまうので、毎日の生活の中で常に意識することが必要ですね。
腸内細菌のバランスがよい美しい腸内フローラを育てて、健康を維持するためには自分自身の意識が大切です。毎日の生活を送る中で、腸内フローラに良いことができているか確認してみてくださいね。