腸を整えると健康な身体に
みなさんの誰もが「毎日健康的な生活を送りたい」と考えているはず。
実は、そのような健康的な生活に、腸内環境が重要な役割を担っていることをご存知でしたか?
腸は“第二の脳”とも言われる、非常に複雑でさまざまな機能を担った重要な臓器です。
腸内環境が乱れて腸の機能が低下すると、肉体面だけでなく、精神面までも不健康な状態に陥ってしまう恐れがあるのです。
今回は、腸内環境と私たちの健康がいかに密接につながっているかについてご説明します。
そもそも健康とは?
一言で「健康」といっても、その状態は個人によってさまざまかと思います。
一般的には、健康とは「肉体的にも精神的にも満たされている状態」と定義されています。
例えば、肉体的に何か病気に罹っていたり、身体に痛みがある部位があったりする場合、健康な状態とはいえません。
あるいは、意欲が湧かない、疲れが抜けないといった精神的に問題がある状態も、決して健康な状態とは言えませんね。
腸内環境の状態は、これら肉体面での健康と精神面での健康の両方に深く関与しており、腸内環境が悪化すると、双方に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。
腸内環境はなぜ変化する?
腸内環境の状態は、腸内細菌のバランスによって変化します。
私たちの腸内には、約100兆個もの腸内細菌が棲みついており、独自の生態系を形成しています。
この生態系における腸内細菌のバランスは、刻々と変化しています。
腸内細菌の勢力争いによって変化する
腸内環境に影響を与える腸内細菌は大きく分けると3タイプいます。
タイプ | 腸内での作用 | 代表的な菌 | 理想のバランス |
善玉菌 | 消化吸収の補助 免疫力の向上 ビタミンの合成 ぜん動運動の促進 |
乳酸菌 | 20% |
悪玉菌 | 腸内発酵の促進 有害物質の生成 |
ウェルシュ菌 | 10% |
日和見菌 | 善玉菌や悪玉菌と同様 どちらかの菌に味方する |
バクテロイデス菌 | 70% |
腸内環境は、この3タイプの腸内細菌がどのようなバランスであるかに影響されます。
これらの菌は、腸内で常に勢力争いをしていて、それによって3タイプの菌のバランスが決まります。
善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7のバランスである時、腸内環境は良い状態に保たれます。
また、善玉菌は年齢とともに徐々に減少し、悪玉菌は増加していく傾向にあります。
年齢を重ねるほど悪化しやすくなる
善玉菌の代表格であるビフィズス菌が最も多くなるのは、生後3日から離乳期までの期間です。
離乳期を過ぎて食事をとるようになると、だんだんと日和見菌の割合が増えていき、中年期を迎えると今度はビフィズス菌の量が徐々に減少しはじめます。
さらに、老年期になると人によっては悪玉菌の量が善玉菌を上回るようになりますので、腸内環境が悪化する危険性は年齢を重ねるほど増していきます。
ですから、高齢になればなるほど、意識的に腸内環境を整える必要性があるのです。
このようにして、腸内細菌のバランスが崩れると、腸内環境が悪化し、健康への悪影響が出る可能性があります。
肉体的な健康との関係
腸内環境が整っている状態とは、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3つに大別される腸内細菌がバランス良く腸内に存在している状態を指します。
これらの腸内細菌のバランスが崩れ、腸内環境が悪化すると肉体的にさまざまな悪影響を引き起こすのです。
今回ご紹介するのは、腸内環境と以下の症状との関係です。
「肉体的な健康との関係」
- 肌荒れ
- 体臭
- アレルギー
- 便秘
- 大腸がん
- その他の腸の疾患
このように、腸内環境の状態が、肌荒れからガンまで非常に幅広く健康に影響しています。
腸内環境の変化は、重度の疾患を引き起こしたり、不快感を引き起こすなど、肉体的な健康を損なうことにつながるのです。
ここからは、これらの症状との関係について詳しくご紹介します。
1:肌荒れやアトピーなど美容的な健康が失われる
腸内環境の変化は、肉体的な健康の中でも肌や髪質、体臭など美容面でも悪影響を及ぼします。
善玉菌が減少、悪玉菌が増殖した腸内環境では、アンモニアやアミン、フェノールといった有害物質が悪玉菌により大量に産生されます。
これらの有害物質は血流を介して全身に運ばれ、皮膚や頭皮の細胞内に蓄積します。
すると、肌あれや肌のくすみ、吹き出物が生じたり、頭髪が育毛されにくくなるといった肉体的な健康にとってマイナスの効果が生じるのです。
また私たちの身体の免疫細胞の多くが腸管に存在している関係で、腸内環境の悪化は免疫力の低下も引き起こします。
免疫力が下がると身体内に菌類やウィルスが侵入しやすい状態となるため、アトピーなどの炎症も発生しやすくなるのです。
2:便秘など、身体にとって不快な症状を引き起こす
食生活が変化、肉類の摂取量が増加すると、腸での消化・吸収に時間を要することになり、結果的に便が大腸内に留まった状態(つまり、便秘)を引き起こします。
この便秘状態は腸内で悪玉菌の増殖を促すことになり、腸内環境は悪玉菌優位な状態になります。
悪玉菌は動物性タンパク質を分解して腸内に有害物質を生み出し、便秘状態をさらに悪化させたり、下痢などの別の症状を引き起こすのです。
大腸がんのような重い疾患にまで至らなくとも、腸内環境の悪化は便秘や下痢といった形で私たちの肉体的な健康に悪影響を及ぼすのです。
3:大腸がんなど、重篤な腸の疾患を引き起こす
近年、日本人の死因として増加傾向にあるのが大腸がんで、1980年から2010年までの30年間で大腸がんによる死亡はなんと約3倍にまで急増しています。
大腸がんが急増している1つの原因として考えられているのが、食生活の欧米化とそれに伴う腸内環境の悪化です。
肉類など動物性脂肪や動物性タンパク質を多く含む食事が増え、相対的に米や食物繊維の摂取量が減少するといった食生活の変化がありました。
それにより、私たちの体内では脂肪の消化酵素である胆汁酸の分泌量の増加や、腸内に存在する悪玉菌の量が増加が生じています。
このような腸内環境の変化や分泌量が増えた胆汁酸が粘膜細胞の遺伝子を傷つけるなどして、大腸がんのリスクを高めているのです。
また最近では、腸内環境が変化すると脂肪の消化・吸収にも変調をきたすことから、肥満やメタボリックシンドロームの発症にも関与することが分かってきています。
これらの重篤な疾患を予防し、肉体的な健康を維持するには、食生活へのケア、腸内環境へのケアが必須なのです。
精神的な健康との関係
腸内環境の乱れは、肉体的な健康のみならず、精神面の健康にも悪影響を及ぼします。
なぜなら、腸や腸内環境の状態は自律神経と密接に相互作用しているからです。
また、神経伝達物質の1つであるセロトニンが主に腸で産生されるということにも関係しています。
「精神的な健康との関係」
- うつ病
- 食欲減退
- 過食症状
腸内環境の悪化が、うつ病に関係していることは、意外に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
続いて、それぞれの関係について詳しく見ていきます。
1:うつ病など、精神的な疾患を引き起こす
主に腸で産生される神経伝達物質であるセロトニンは、別名“幸せホルモン”とも呼ばれています。
これは、セロトニンが幸福感や安心感といった感情と深く関連がある脳内ホルモンの1つだからです。
腸内環境が乱れるとセロトニンの産生が滞り、体内のセロトニン存在量が減少してしまいます。
セロトニンが減少すると幸福感や安心感を感じにくくなり、重篤な場合はうつ病などの精神疾患を引き起こす場合があります。
つまり、腸のケアを怠ると精神的な健康を失う可能性もあるのです。
また、腸内環境は自律神経とも相互作用しており、睡眠不足などにより自律神経の作用が低下すると腸の働きも低下します。
すると腸内環境が悪化し、セロトニンの減少を引き起こし、不安感が高まってさらに睡眠の質が低下するといった悪循環に陥る可能性もあります。
2:食欲減退や逆に過食症状が出るなど、食欲に影響する
腸内環境の乱れが便秘を引き起こすことは先述の通りですが、便秘は膨満感とそれに伴い食欲減退を引き起こします。
また逆に、セロトニンは食欲を抑える役割があり、分泌量が減少することで食欲を抑えることが難しくなり、結果として過食症状が出る場合もあります。
食べたいものが食べられなくなったり、逆に食べても食べても満足感を得られないなど、食生活までもが乱されてしまう可能性があるのです。
このように腸内環境を整えられるかによって、私たちの健康は大きく左右されます。
大切なのは、腸内細菌のバランスを保って腸内環境を良い状態に保つことですが、生活の中には腸内環境を悪化させる様々な要因が潜んでいます。
なぜ腸内環境が悪化する?
腸内環境の悪化は、腸内細菌のバランスが崩れ、悪玉菌が増殖することによって起こります。
では、悪玉菌が増殖する要因にはどのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、悪玉菌の増殖を引き起こす要因について見ていきます。
悪玉菌の増殖は、主に2つの要因によって引き起こされます。
悪玉菌を増殖させる2つの要因
- 食習慣の乱れ
- 生活習慣の乱れ
悪玉菌を増殖する要因は、普段の食事や生活と密接に関わっています。
具体的にどのようなことが悪玉菌の増殖に繋がるのか、食事と生活に分けてご説明します。
悪玉菌を増やす食習慣
悪玉菌を増殖させるのは、タンパク質や脂質が多い食習慣です。
肉類に含まれるタンパク質の一種には、悪玉菌のエサになるものがあります。
そのため、適量を食べる分には問題ありませんが、過剰に食べると悪玉菌が増殖する可能性があります。
また、悪玉菌の増殖させるわけではありませんが、脂質の摂り過ぎにも注意が必要です。
脂質の分解には、胆汁が必要ですが、脂質を取りすぎると胆汁が大腸まで流れ込んできます。
胆汁は腸内細菌を殺菌してしまいますので、腸内環境が崩れる可能性があります。
腸内環境を悪化させる食べ物については、以下の記事で詳しく紹介していますので参考にしてください。
悪玉菌を増やす生活習慣
次に、悪玉菌の増殖を引き起こす生活習慣についてです。
生活習慣が要因で悪玉菌が増殖する場合は、腸の働きが鈍くなり便秘になっていることに影響を受けていることが多いです。
便秘になることで腸内の便が溜まると腐敗が進み、悪玉菌が増殖しやすい環境になります。
日常生活の中で、便秘を引き起こすきっかけとしては、以下の様なものが考えられます。
便秘のきっかけとなるもの
- 運動不足
- 睡眠不足
- ストレス
運動不足は排便能力の低下につながりますし、睡眠不足やストレスは、腸の働きを鈍くします。
詳しいことについては、以下の記事で紹介していますので、参考にしてください。
では、腸内環境が悪化してしまった場合には、どうすればよいのでしょうか?
ここからは、腸内環境を整える方法についてご紹介します。
腸内環境を整える方法
腸内環境を整えるためには、悪化の原因となっている食習慣と生活習慣を見直す必要があります。
食事では、タンパク質の摂り過ぎや、脂質の摂り過ぎに注意しつつ、善玉菌を増やす食事を摂ると良いです。
生活習慣では、なるべくストレスを溜めないようにし、腸の働きを活発にしておくことが大切です。
食事を見直して整える
まず、食事を見直す中で、タンパク質や脂質を摂り過ぎないようにすることが大切です。
さらに、食事によって腸内環境を整える成分が含まれている食べ物を、積極的に食べると良いです。
腸内環境を整える成分とは、善玉菌の活性化させたり、便秘を改善したりする成分で、主に3つあります。
腸内環境を整える成分
- 善玉菌
- オリゴ糖
- 食物繊維
善玉菌は、ヨーグルトやチーズなどの発酵食品に多く含まれています。
善玉菌に関しては、食事によって摂取する方法以外にサプリメントを利用しても良いでしょう。
オリゴ糖や食物繊維は野菜から摂取することができます。
これらの成分を食事から摂取して、腸内環境を整える方法については、以下のサイトで詳しく紹介していますので参考にしてください。
ただし、食事を見直すだけでは不十分で、同時に生活を見直す必要もあります。
生活を見直して整える
腸内環境を整えるためには、食事とともに生活習慣についても見直す必要があります。
なぜなら、腸の働きを左右する自律神経は、生活習慣に影響を受けているからです。
規則正しい睡眠によって自律神経のバランスを整えることや、日頃からストレスを溜めないようにすることが大切です。
また、適度な運動は、睡眠の質を向上させるほか、排便に必要な筋力の強化にもつながります。
腸内環境を整える生活については、以下の記事で詳しく紹介しておりますので、参考にしてください。
まとめ
今回は、腸内環境と健康の関係についてご紹介しました。
腸内環境が乱れると、肌荒れからガンまで、様々な健康への悪影響を受ける可能性があります。
そうした悪影響を受けないように、日頃から腸内環境を整えるよう工夫する必要があります。
大切なのは、食事で善玉菌や食物繊維、オリゴ糖など腸内環境を整える成分を摂取することです。
また、普段の生活を振り返って、睡眠や適度な運動をすること、ストレスを溜めないことも大切です。
腸内環境を整えて、肉体的にも精神的にも健康な日々を過ごせるように、これらのことを工夫してみてください。
この記事の筆者
腸内細菌博士
1977年生まれ。京都大学・大学院にて分子細胞生物学を専攻。腸による脂質代謝や栄養吸収を細胞レベルで研究、また腸に関連する疾患の予防、治療方法の基礎研究に従事。
ほか、腸の働きと関連性のある自律神経系や免疫システムについては、現在も米国科学雑誌等で最新研究動向をウォッチ中。現在、米国にてMBA留学中。