腸内環境の乱れは生活の乱れ。こういう生活送っていませんか?
疲労が溜まっていたり、睡眠不足が続いていたり、不規則な食生活など生活のリズムが乱れると、風邪をひきやすくなったり肌あれが起きたり何かと身体の調子まで悪くなりがち。
生活が乱れると身体の調子までおかしくなるのは、実は腸内環境が乱れているから。腸は「第2の脳」とも呼ばれる私たちの身体にとって重要な器官。
生活習慣の乱れは腸の正常な働きを妨げ、腸内環境を乱し、体調不良を引き起こすのです。健康な生活を送るためには、腸内環境を整えることが重要で、腸内環境を整えるためには、自身の生活習慣を見直すことが必要です。
みなさんは腸内環境に優しい生活を送っていますか。
腸内環境の乱れが体調不良を引き起こすメカニズム
例えば風邪をひくのは、体外から侵入したウイルスや細菌に身体が負けてしまう、つまり免疫機能が弱くなっているということが1つの原因。
また、病気ではないのだけどなかなか疲れが抜けない、あるいはやる気が起きないといった精神面の調子の悪さには、自律神経の乱れが関与しているかも知れません。
こういった私たちの免疫力や自律神経には、実は腸が密接に関連しているのです。
ウィルスから体を守る役割を持っている免疫細胞は、その大半が腸内で産生されていたり、また自律神経の1つである副交感神経の働きが弱まると、大腸のぜん動運動という機能まで弱められてしまいます。
腸内環境が乱れると免疫細胞の量が減少したり、自律神経の乱れは大腸の働きを弱めてさらに腸内環境を悪化させたりと、健康な身体を維持するためには腸内環境を正常な状態に保つことがとても重要です。
ただし、腸内環境は生活習慣や生活リズムのちょっとした変化によってもすぐに乱れがち。
理想的な腸内環境とは、善玉菌、悪玉菌、日和見菌といった腸内細菌がバランス良く存在している状態なのですが、生活が乱れると悪玉菌が増殖、この腸内環境のバランスを崩してしまいがち。
それでは、悪玉菌を増殖させ、腸内細菌のバランスを乱してしまうような生活習慣とは、具体的にどのようなものでしょうか?
これはダメ!腸内環境を乱す生活習慣
悪玉菌の極端な増殖を防ぎ、常に腸内細菌のバランスを理想的な状態に保つためには、腸に優しい生活習慣を身に付け、それを一定のリズムで保つ必要があります。
ところが、仕事や学業で忙しかったり、あるいはそれに精神的なストレスなどが加わると、一定の生活習慣を維持し続けることは難しく、私たちの生活リズムは乱れがち。
ここでは、特に腸内環境にとって良くない生活習慣の例をいくつか挙げてみます。
「昔はよく運動していたけど、最近は…」といった運動不足
運動不足は私たちの身体にさまざまな影響を及ぼしますが、腸内環境も例外ではありません。
ただでさえ加齢とともに筋力は衰えていくのに、忙しい生活が続くとどうしても運動不足になりがちになり筋力の低下を防ぎようがなくなります。この筋力低下は腸の働きまで一緒に衰えさせてしまいます。
正常な腸内環境を維持するためには、実は筋力がとても重要で、特にお腹まわりの筋肉(腹筋など)が重要。お腹まわりの筋力が低下すると、どうしても排便する力が弱くなり便が腸内にとどまりがちになります。
腐敗した便が長い時間、腸内にあると悪玉菌の増殖を促してしまうため腸内細菌のバランスが乱れるのです。
あなたがもし便秘のような症状に悩まされているとしたら、それは運動不足、特に腹筋力の低下が関係しているかも知れません。それくらい、腸内環境と運動は密接に関連しているのです。
定期的に適度な運動をすることでお腹周りの筋肉を刺激、これによって腸のぜん動運動が活発化して消化・吸収が促進されるほか、便を体外へ排出する働きを助けます。
腹筋のトレーニングとまではいかなくとも、お腹周りを中心にストレッチを行うだけでも腹筋力の維持には効果があるので、腸内環境の乱れを防ぐためにも、適度な運動を心がけるのはとても重要なことなのです。
「最近、野菜をあんまり食べてない…」「夕食が深夜になることが多い」といった食生活
毎日の食事の内容も、腸内環境と非常に深いかかわりがあります。例えば、食物繊維の摂取不足。
豆類や根菜類、果物などに多く含まれる食物繊維ですが、この摂取量が減少すると便秘のような症状を引きこすなどして、腸内環境が乱れることにつながります。
食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があり、水溶性食物繊維には便を柔らかくする働きがあり、また不溶性食物繊維には便の量を増やし、排便を促す役割があります。
これらの食物繊維の摂取量が低下すると、便が固くなったり、量が減って排便されにくくなるため、結果的に便が腸内にとどまる時間が長くなり腸内細菌のバランスを乱すことになるのです。
また、夜遅くの就寝前に食事を摂ることも腸内環境が乱れる原因になり得ます。
これは食事を摂取した後、私たちの身体は食物を消化・吸収するために活性化されてしまい、せっかく就寝しようとしても副交感神経が活性化されず、腸の働きを逆に弱めてしまうためです。
さらに、食事が肉類など動物性タンパク質を多く含むものであったり、揚げ物など動物性脂質を多く含むものである場合、消化そのものに時間がかかり、腸内に未消化の食物がとどまったり、その結果として悪玉菌の増殖を促すといった問題を引き起こします。
腸内環境を理想的な状態に保つためには、就寝前の飲食、特に就寝前に動物性のタンパク質や脂質を摂取することは厳禁なのです。
「最近、ヨーグルトなどの乳製品をあんまり食べてない…」といった食生活
善玉菌、悪玉菌、日和見菌といった腸内細菌をバランスよく保つという意味では、例え、腸内環境が乱れて悪玉菌が増殖したとしても、その分善玉菌を補えば、元のバランスを取り戻せることになります。
この善玉菌を多く含む食品の代表格がヨーグルト。ヨーグルトにはビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌が多く含まれており、積極的に摂取することで直接善玉菌の量を増やすことができます。
また、同じ乳製品である牛乳にはオリゴ糖が豊富に含まれており、このオリゴ糖は善玉菌の増殖を促す成分としてよく知られています。
オリゴ糖を多く含む食品を積極的に摂取することで腸内での善玉菌の増殖を促進し、一度乱れてしまった腸内環境のバランスを元の状態に戻す効果を期待できます。
これらの乳製品の摂取不足は、善玉菌を増やす機会を失うことにつながり、一度腸内環境が乱れてしまうとなかなか元に戻らないという悪循環の一因となってしまいます。
悪玉菌を増やさないことも大切ですが、たとえ腸内環境が乱れてもヨーグルトなどを積極的に摂取し、善玉菌を増やすことですぐに腸内環境を健康な状態に戻すといった習慣もぜひ身に付けたいですね。
「最近、忙しさとストレスでなかなか寝付けない…」といった睡眠不足
仕事に集中するのは良いことですが、過度な頑張りはストレスを溜めることにつながったり、精神的な疲労の蓄積につながってきます。また極度に集中している時、私たちの身体は興奮状態にあります。
このような場合、私たちの自律神経のうち交感神経の働きが活性化されます。交感神経は身体が活性化しているときに働く自律神経で、交感神経が活性化されているともう一方の自律神経である副交感神経は働きづらい状態になります。
ところが休息時や身体がリラックスした状態の時に働く副交感神経は、腸の働きと密接なかかわりがあるのです。副交感神経には、大腸で作られた便を肛門側に押し出すためのぜん動運動を活性化する役割があります。
身体が興奮状態でリラックスしづらく、なかなか寝付けない睡眠不足状態が腸内環境の乱れを引きこすことには、この副交感神経と大腸のぜん動運動の関係がかかわっているのです。
忙しい中であっても腸内環境を正常な状態に保つためには、できるだけ身体をリラックスさせ副交感神経が十分に働くよう、睡眠・休息の時間を確保することが何よりも重要です。
毎日の生活の中でのONとOFFのバランス、つまり交感神経と副交感神経のバランスは、腸内環境・腸内細菌のバランスと直結しているのです。
生活習慣の乱れ、特に運動、食事、睡眠にかかわる生活リズムの乱れが、腸内環境の乱れを引き起こすメカニズムについて、お分かりいただけたでしょうか?
腸内環境のバランスを保ち、健康的な毎日を維持するためにも、生活リズムを保ったり、例え生活が一時的に乱れても、すぐに元に戻す工夫をしていくことを心がけたいですね。
この記事の筆者
腸内細菌博士
1977年生まれ。京都大学・大学院にて分子細胞生物学を専攻。腸による脂質代謝や栄養吸収を細胞レベルで研究、また腸に関連する疾患の予防、治療方法の基礎研究に従事。
ほか、腸の働きと関連性のある自律神経系や免疫システムについては、現在も米国科学雑誌等で最新研究動向をウォッチ中。現在、米国にてMBA留学中。