おならが臭う理由
おならって、何となくつかみどころがないものですが、でもあの臭いと音はしっかり存在を主張していますよね。音がするのはわかりますが、でも、あの臭いってどこから来るんでしょうか?
また臭かったり臭くなかったりと、同じ人でも違ったりしますね。
今回のコラムでは、おならという方向から、腸の中を考えてみたいと思います。
腸の中がどうなっているか、おさらいしましょう
ものを食べたり飲んだりしたら、食道を経由して胃に届き、腸に移動して、消化吸収を受けたり腸内の微生物の作用を受けたりして、最後に大腸で水分が吸収されて便として体外に排出されます。
食べたり飲んだりしたとき、空気を飲み込んだり、ビールやコーラなどから二酸化炭素が発生したりして、多少の気体分も消化器内に入っていきます。とはいえその量は呼吸量に比べてわずかです。
ですので腸の中は、酸素の有無で考えると、酸素が全くない状態なのです。
その中で炭水化物がブドウ糖に分解され、脂肪分が脂肪酸(せっけんの主成分)とグリセリンに分解され、たんぱく質がアミノ酸に分解されて、吸収されていきます。
他のミネラルやビタミン類も主に腸で吸収されていきます。
酸素が不要な場合や、酸素があると生きていけない微生物
ここで「あれ?」と思った人がいるかもしれませんね。酸素なしで微生物が生きていけるの?微生物は呼吸はしないの?そういう疑問だと思います。
実は、酸素が無くても生きていける微生物や、逆に酸素があったら死んでしまう微生物というのも、たくさんの種類がいます。
酸素があってもなくても何とかなるのは、実は私たち人間の筋肉も同じです。筋肉がブドウ糖を取り込んだ後は、グリコーゲンというデンプンの仲間の物質に変えて蓄えています。
酸素の供給が追い付かないような運動をすると、ブドウ糖やグリコーゲンが乳酸に変化して、この時にできるエネルギーを利用して活動します。
ここで、見覚えがある言葉が出てきましたね。グリコーゲン?いえいえ「乳酸」です。
そう、乳酸菌も同じように、糖類から乳酸を作って、その時にできるエネルギーで生きています。逆に、乳酸を作るから乳酸菌という名前が付きました。
乳酸菌にも種類がありますが、多くは酸素があると二酸化炭素と水にまで分解し、酸素が無いと乳酸を作って、酸素があってもなくても生きていける微生物です。
おならが臭う理由
では、本題に入りましょう。このように腸の中では酸素がなく、完全に二酸化炭素と水にすることができないために、臭いがある成分が作られます。
インドールやスカトールといった臭いの成分は、ニンニクや玉ねぎと言った臭いの強い野菜を食べた時に、悪玉菌であるウェルシュ菌がたんぱく質から作りだします。
臭いおならが出る時には、ウェルシュ菌が多くなっている危険信号です。ウェルシュ菌は腸壁のたんぱく質も食べようとするので腸内に傷口ができ、そこから血液に乗って体内に病原菌が入り込むことがあります。
腸内細菌を善玉菌、悪玉菌、日和見菌と分類した場合、数の上では腸内のほとんどの細菌が日和見菌です。
ですから、悪玉菌が優勢となったら日和見菌が一斉に悪玉菌の味方をしてしまう可能性があります。ですから危険信号だと思って注意してください。
また、卵が腐ったようなにおいの硫化水素ができることがあります。これはニンニクや玉ねぎのにおい成分の中に硫黄分が入っていて、それが変化したものです。
食べ物にもよるので、卵が腐った臭いの場合は健康上はそれほど気にすることはありません。むしろそれらを食べた後の口臭に注意してください。
おならの臭いは腸のどこでできるか
腸と言っても、胃の直後から肛門まで、人間の場合は7~9メートルもあります。胃の直後は十二指腸と言って脂肪分を分解する酵素とそれを補助する胆汁が出る場所です。
胆汁には界面活性剤としての作用があるので、いわばせっけんで手を洗っているのと同じで微生物が生育しにくく、多くの微生物は小腸の終わりの部分から大腸にかけて生息します。
例えば食物繊維のように、人間の体が分解酵素を持っていない場合はここまで食べ物が流れてきて、微生物がオリゴ糖や食物繊維などを食べて発酵して、その時にメタンガスが、また臭気成分のインドールやスカトールが生成します。
スカトールは人間の細胞にダメージを与える毒になりますから、臭いおならをよく出す人は大腸がんになる確率が高いという関連があるかもしれません。
まとめ
おならの臭いも善玉菌と悪玉菌の仕業で、腸内の調子を知るうえで大きな手掛かりになる事が分かったかと思います。
臭いおならや、臭いにおいの下痢や軟便が続く場合は、おなかの中の調子があまりうまくいっていないかもしれないですね。
腸内環境の改善に、まず試してもらいたいことは、よくかんで腹八分を守る事です。
その次にサプリメントに頼ることも一つの方法かもしれませんが、それでも改善しなかったら、早めに内科医の診察を受けましょう。
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この記事の筆者
仁古里 笑 (経営コンサルタント)
1990年代初めから、病院での臨床医学研究、海外大学での基礎医学研究、製薬会社での創薬研究・開発など、20年近く医学・生物学・薬学の研究・開発に携わる。もともとの専門が粘膜免疫であり、腸内細菌と腸の粘膜免疫との関連、そこからの全身疾患への影響などに精通している。
現在は専門を経営学に転じ、病院経営などの支援をしながら、一般の方に向けて身体の仕組みや病気のこと、薬のことなどをわかりやすく説明している。