どうしても胃腸の調子を整えたい

胃1

「どうも最近、胃腸の調子が悪くってね。飲めなくなったよ」
「僕は胃腸が弱いから、たくさん食べられなくって痩せているんだよ」
「あいつの胃腸は頑丈だから、何食わせても大丈夫だ」

などと、日常の会話には胃腸の話がありふれています。

それだけ、胃腸のことを気にしているのかな?と思っていると、必ずしもそうではなく、

  • 自身の不健康自慢のタネに使われたり
  • 弱々しさを演出するときに使ったり
  • 共通の友達を笑いのタネにするときに使ったり されているようです。

今日は、はじめに胃腸の仕組みについて詳しく解説しご理解いただいた後に、胃腸を労わるためにはどうしたらよいのか?についてあなたと考えていきたいと思います。

胃腸はこんなにすごかった!

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皆さんは胃腸を見たことがありますか?

最も身近に胃腸を見ることができるとすると焼き肉屋さんでしょうか。

ミノとかセンマイは胃ですし、てっちゃんやホルモンと呼ばれているのが腸です。

生の姿を見て、焼いて食べてみると、胃はしわのあるチリメン状で焼くと筋肉質で歯切れがいいのに対して、腸はフワッとしていて焼くとゴムみたいに弾力があります。

胃は食料を大量にためこむことができる大きな袋

胃

胃は食道の下に位置しており、袋状の形をしています。食べた食物をいったん蓄える役割があります。

胃が袋状になっており大きく膨らむことができるおかげで、1日に3回程度の食事で済むのです。

手術で胃を切除した場合、1日の食事を少量で数回に分けてとらねければいけないですよね。あれは胃で食物をため込むことができないから、なのです。

また、胃からは胃液と消化酵素であるペプシンが分泌されます。

ペプシンは胃液の強酸性下でタンパク質を消化することができます。

胃液の酸性の度合いが弱いとペプシンが働きにくくなり、タンパク質は消化しにくくなってしまいます。

夏など暑い時にたくさんの飲み物をがぶ飲みするのは、胃液が薄まる(酸性が弱くなる)からよくないのです。

胃に入った大量の食物と胃液・ペプシンをまぜ合わせるために、胃は伸びたり縮んだりを繰り返します。

胃の内腔は外側は筋肉が大変発達しており、縮んでいるときにはしわくちゃになります。

これが先の焼き肉の話でも述べた、胃には皺(しわ)があり筋肉質で歯切れが良いという事実の真相です。

腸は10メートルもある長い長いトンネル

腸
胃で食物は完全には消化されません(半消化といいます)。半消化物は腸に入ってから本格的な消化吸収を行います

胃から続く腸は、十二指腸⇒小腸⇒大腸⇒直腸⇒肛門と続いています。人の場合、十二指腸は25センチと短い(指12本分ぐらいの長さというのが名の由来)のですが、小腸は6~8メートもあります。

大腸は1・5メートルぐらいです。胃から送られた半消化物は、腸に入ってから10メートル近くもあるトンネルの中を旅するのです。さて、どんな旅をするのでしょう?

十二指腸・小腸は消化吸収のベルトコンベヤー

胃の半消化物が十二指腸に入ると、膵臓(すいぞう)から強アルカリの膵液(すいえき)とたくさんの消化酵素が分泌されます。

膵臓(すいぞう)から分泌される消化酵素

  • タンパク質を分解するトリプシン
  • 脂肪を分解するリパーゼ
  • でんぷんを分解するアミラーゼ

胃からの半消化物は胃液の影響で強酸性となっています。

この酸を膵液(すいえき)は中和するのです。

胃の半消化物は十二指腸で膵液(すいえき)とさまざまな消化酵素が混ざり、次の小腸へ行きます。

小腸では腸液と混ざりながらゆっくりと消化が進みます。その際、消化酵素は栄養素を以下の表のように分解していきます。

(消化酵素)が (栄養素)を ○○に分解する
トリプシン タンパク質 アミノ酸
リパーゼ+胆汁 脂肪 脂肪酸とグリセリン
アミラーゼ でんぷん ブドウ糖

そして、これらの分解産物は腸の表面(上皮)から吸収され、血液に乗って全身に運ばれます。
血液
腸は次々と胃から送られてくる半消化物を手際よく消化するために、長い小腸の管を通過させながら食物を消化し吸収していくのです。

その様子は、ちょうどベルトコンベヤーに乗って加工される製品のようです。

そして、消化と吸収を行いながら内容物を送り出す腸は、内面は細かい襞(ひだ)状になっており、さらにその襞(ひだ)には微絨毛(じゅうもう)と言われる細かい毛が生えていてまるでふわふわの羽根布団のようなのです。

その周りをベルトコンベヤーのゴムベルトのように筋肉が覆っています。

先の焼き肉のところで述べたフワッとしていて焼くとゴムみたいな歯ごたえになっているのはこのためなのです。

大腸は食物残渣(ざんさ)から水分を吸収し、大便をつくる

消化・吸収された腸の内容物は「食物残渣(ざんさ)」となって、大腸に運ばれます。

大腸に入ったばかりの食物残渣(ざんさ)は、腸液に含まれる大量の水分、消化できなかった食物繊維や食物由来固形物から構成されており、胆汁で少し緑がかったドロドロとした内容物です。

大腸の役割は、水分を吸収することです。ドロドロした食物残渣(ざんさ)から水分を吸収することで、固形状の大便になります。

大便はいったん直腸にためられ、直腸が膨らむぐらいたまると便意を催し、トイレに行くまで我慢してから肛門から排せつされます。

【胃腸への影響絶大】腸内細菌の働き

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ここまで胃と腸の最も大きな働きである「食物がどのように消化吸収されるか」を説明しました。しかし、肝心なプレーヤーがいることを説明していませんでした。

そのプレーヤーとは言わずも知れた「腸内細菌」です。

どうして、消化吸収のところで説明しなかったかというと、腸内細菌は、消化吸収のみならずもっと広く私たち人間のために働いているからです。

①消化を助ける!腸内細菌は食物繊維を糖やオリゴ糖に分解

腸内細菌の好物の一つに、食物繊維があります。

人間は食物繊維を分化することができず、食物残渣(ざんさ)として大便に排せつしてしまいますが、食物繊維の一部は腸内細菌の餌となります。

そして、腸内細菌は食物繊維を糖やオリゴ糖に分解してくれるのです。

特にオリゴ糖は、人間は合成することができず腸内細菌の助けによって、はじめて人間が利用できるのです。

そして、オリゴ糖は免疫機能を高めたり、腸内の善玉菌(ビフィズス菌)を増やしたり、便秘を改善したりなど大変有用な栄養素なのです。

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②体の潤滑油であるビタミンを腸内細菌は生成してくれる

ビタミンという栄養素がありますが、ビタミンは、そのもの自体は栄養にはなりませんが、体のさまざまな化学反応(代謝)を円滑にするための機能を背負っています。

ビタミンが欠乏すると、代謝がうまく行われずに、体調を崩すことになります。

例えば、ビタミンCが不足すると疲労感や脱力感を感じ、怒りっぽくなります。欠乏が重症化すると壊血病という命にかかわる病気になることもあります。このようにビタミンは大変重要な役割を演じています。

人間は多くのビタミンを必要としますが、体内で生成することはできず、そのほとんどを外部から栄養素としてとる必要があります。

その中で、ビタミンB群の一部や、ビタミンK、葉酸などは腸内細菌によって(も)合成されます。このように腸内細菌は人間を栄養面からも支えているのです。

③免疫力向上から肥満の防止まで。腸内細菌の未知なる可能性

腸内細菌は数百種類もあり、そのそれぞれをお花に例えて、腸内細菌全体を腸内フローラ(腸内お花畑)と表現する場合があります。

腸内の細菌の役割は個々の細菌でとらえるより、腸内フローラ全体の機能としてとらえた方が良いということもあります。

腸内フローラの役割はすべてが解明されたわけではありませんが、従来考えられているよりも人間にとってはるかに重要な役割を果たしていると考えられています。

ある種の疾患では、元気な人の腸内フローラを腸に移植すると疾患が治ってしまうという報告がなされており、腸内フローラの移植治療も現在では開発中です。

腸内フローラが宿主の免疫機能を高めるという、重要な機能も確認されております。

ある実験によると、無菌的な環境で飼育したマウス(無菌マウス)には腸内細菌はおらず、免疫機能も通常マウスと比べて4分の1以下しかなかったそうです。

そこで、無菌マウスを通常の環境に戻すと、2週間もしないうちに腸内細菌が根付き、通常のマウスと同じ程度の免疫機能を持つようになった、とのこと。

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消化管としての役割

胃腸は消化管として、食べ物の消化吸収のために働いていることは、先に述べました。

しかし、消化管の役割はそれだけではありません。

どんな原始的な動物(線虫やヒドラなど)でも消化管と生殖器は持っており、それは、食べることと子孫を残すことが、生きることの原点であることを示しています。

ではその消化管がどのような役割をしているか、見ていきましょう。

①センサーとなり、身体に有害なものを排除してくれる

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消化管は体外部の環境と体内部の環境との接点に位置しております。

よく考えてみると、食べるということは、外の物を体の中に取り込むことであり、生物にとって危険を伴う行為です。

だからこそ、胃腸はセンサーを発達させ、瞬時に「この食品は安全」「これは毒だから早急に体外へ排せつしよう」といった判断が自らできる仕組みを整えているのです。

例えば、外から毒素が入ってきた場合、消化管上皮の表面に発現しているさまざまな化学物質センサーによって感知されます。

それが身体にとって有害であると腸が識別すると、消化吸収をストップさせ大量の腸液を分泌して一気に外に排せつさせます。

これが下痢が起きる一つの原因です。

そして腸は、今後その毒素の入った食物を摂取しないように身体に学習させるのです。

②腸は第二の脳(実は腸から脳が誕生した)

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腸の外側には神経がネット上に広がっており、ちょうど網タイツを履いた女性の脚のように見えます。

この神経ネットワークによって腸は外部からの情報収集と処理を行い、きわめて高度な判断を行っております。これが腸が第二の脳と呼ばれる理由です。

しかし、これは実は変な話で、というのも

脳は動物の進化の過程で、腸から入った外部情報を処理するために発達された組織であり、脳は腸からできたと言っても過言ではないからです。

腸は第二の脳というより「脳の元祖」と言った方がいいのかもしれません。

さてm次からは、どのように胃腸の調子を保つべきかについて、あなたと一緒に考えていきましょう。

胃腸の調子を整えるコツは3つ

ここまで、胃腸の特徴について、

  • 消化管の機能
  • 腸内細菌の働き
  • 消化管の存在としての意味

と大きく3つに分けて説明してきました。

胃腸の調子を整えるコツについても、これらの3つの特徴に沿って考えてみたいと思います。

①負担をかけない。食べ過ぎない、飲みすぎない。

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食べ過ぎないこと

胃腸のメーンの働きは消化吸収です。

消化吸収はベルトコンベヤーのような流れ作業ですので、処理量が決まっています。

そのため、一度にたくさんの量を処理することができません。

食べ過ぎはベルトコンベヤーである胃腸に大きな負担をかけてしまいます

胃腸は利口なので、処理できない程の量が入ってくると、吐き戻しや、下痢を起こさせて消化吸収処理を諦めてしまいます。この時にも消化管には大きな負担をかけます。

腹八分目とはよく言ったもので、これくらいが胃腸にはちょうどいいのです。「自分はどうしても食べ過ぎてしまう」と感じたら、胃腸のために少し仕事量を減らしてやってください。

飲み過ぎないこと

水やアルコールを飲み過ぎるとやはり消化管に負担になります。

がぶがぶと水やビールを飲むのは気持ちがいいものですが、これは胃液を薄めています。

胃液を薄めることで、酸度が弱くなることでペプシンが働きにくくなり消化不良の原因になります。

熱中症などが怖いので、水分補給は重要なのですが、一度にたくさんの水を飲むよりも、何度かに分けてこまめに摂ることを心掛けましょう

またアルコールは、消化管の上皮細胞に確実にダメージを与えます。

飲み過ぎると胃や十二指腸が荒れるのは、アルコールによって傷つけられるからです。

重症になると潰瘍を作る場合があります。

仲間と楽しく飲んでいるとつい飲み過ぎてしまうのも理解できますが、アルコールによって胃腸の細胞がたくさん傷つけられていることも理解して節度のある飲酒を心掛けましょう。

②腸内細菌を大切に

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野菜をたくさん食べよう

野菜にはたくさんの食物繊維が含まれています。

食物繊維は腸内細菌の大好物であることを先に説明しました。腸内細菌は、食物繊維を分解している間はご機嫌に働いてくれます。

しかし、食物繊維が少なくなって肉が多くなると、途端に機嫌が悪くなり今度はアミノ酸を分解し始めます。

腸内細菌がアミノ酸を分解すると、アンモニアやスカトール、インドールといった有毒な物質を放出します。

これらは、胃腸だけではなく、吸収されて全身に広く悪影響をおよぼすことが分かっています。

ただし、これは「肉を食べるのを止めなさい」という意味ではありません。「肉と一緒にしっかり野菜も摂りましょう」という意味ですので、誤解の無いようにしてください。

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ヨーグルトは健康にいいということを知っている方は多いと思います。

確かにその通りです。

それは、ヨーグルトに入っている善玉菌や乳酸などの善玉菌が作った物質が、悪玉菌と呼ばれる腸内細菌の増殖や腐敗による有害物質の生産を抑制するからです。

善玉菌をおなかの中で意図的に増やすことは困難です。ですから、毎日補給してやる必要があります。

ヨーグルトをはじめとする乳酸食品や乳酸飲料を毎日少しずつ摂ることが大切なのです。

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③ストレスに弱い

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脳をリフレッシュすることは腸をリフレッシュすることでもある

胃腸は大変高度に発達した神経系を持ち、自ら判断できるため、第二の脳と呼ばれていると説明しました。

また、胃腸は大変賢く、脳と同じようにストレスに大変弱い器官です。

脳のストレスは腸のストレスでもあるとも言われております。(事実「うつ」の患者さんには便秘で苦しんでいる人が多いです。)

ですから、胃腸にしっかり働いてもらうためにも、精神や肉体のストレスはなるべく避けましょう。

どうしても避けて通れない場合は、早めにたまったストレスを解消しましょう。

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運動しよう

運動はストレスの解消の他、腸の動きをよくし腸を活発に働かせます。

高齢者になると便秘がちとなるのは、運動不足が原因している場合が多分にあります。

毎日少しずつでもよいので、運動をしてください。

スポーツという形でなくとも、歩く距離を伸ばしたり、階段を使ったり、寝る前にグルグルとおなかを回転させたりなど、どんなことでもいいので身体を動かすことを心掛けてください。

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まとめ:胃腸をかわいがって長生きしよう

ここまで読み進めてくださり、ありがとうございました。

消化管ってすごいと思いませんか?とても賢く敏感な器官なのです。

冒頭のレトリックもあながちウソではないことが分かりますよね。

胃腸を含む消化管は賢い上に、大変控えめな器官です。消化管は自分の要求を自ら訴えることはあまりしませんし、訴えたとしてもわずかなシグナルしか出しません。

ですから、消化管を大切にするということはいつも消化管のことを思いやって、消化管によい生活するということなのです。

単にサプリや薬を飲めばいいというものではありません。心を理解しないでモノだけ与えてもちゃんとした付き合いができないのと同じことです。

消化管のことをよく理解して、良いこと悪いことを意識しながら付き合ってあげることが重要です。

消化管は全身に広く影響を与えます。消化管をかわいがって生きることは、元気に長生きすることなのです。今日から消化管に良い生活を始めませんか?

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この記事の筆者

仁古里 笑 (経営コンサルタント)
1990年代初めから、病院での臨床医学研究、海外大学での基礎医学研究、製薬会社での創薬研究・開発など、20年近く医学・生物学・薬学の研究・開発に携わる。もともとの専門が粘膜免疫であり、腸内細菌と腸の粘膜免疫との関連、そこからの全身疾患への影響などに精通している。
現在は専門を経営学に転じ、病院経営などの支援をしながら、一般の方に向けて身体の仕組みや病気のこと、薬のことなどをわかりやすく説明している。

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