どうしても腸内環境をリセットしたい
腸内環境が乱れてしまい、そのせいでなかなか体調が回復しない、そんな悩みを抱えている方も実は多いそう。
またそういった悩みを抱えている方の中には、「ゲームみたいに腸内環境を一旦リセットして、キレイに最初からやり直し!って方法、何かないの?」なんて疑問に思われている方も。
私たちの腸は非常に複雑でさまざまな機能・役割を担った臓器ですので、単純にリセット!とするのは難しいのですが、いくつか考えられる方法も。
ここでは腸内環境をリセットするための方法を皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
腸内環境をリセットするとは?
腸内環境をリセットするとして、腸内環境を最初のキレイな状態に戻すとは具体的にどんなことでしょうか?
人は生まれる前、母親の胎内にいる間は無菌状態で育っており、胎児の腸内も腸内細菌が存在しない状態であることが知られています。
生まれたての赤ちゃんの腸内もほとんど細菌が存在しない状態なのですが、生後すぐから腸内細菌の繁殖が開始されます。
生後直後は圧倒的に善玉菌が優勢な状態で、その後、離乳食の摂取などを通して徐々に悪玉菌の割合が増加していきます。
このことには、私たちの腸内には悪玉菌も不可欠であるという意味が含まれています。悪玉菌には、動物性タンパク質を効率よく消化したり、体外から侵入してくる細菌やウィルスへの抵抗力を高めると言った働きがあるのです。
事実、生まれながらにしてアトピー疾患のあった赤ちゃんの腸内環境を調べたところ、腸内細菌の半数以上が善玉菌で相対的に悪玉菌の存在割合は低かったとのこと。
細菌やウィルスへの抵抗力が上がらないために、アトピーが発症してしまったと考えられています。
腸内細菌のバランスをリセットする?
腸内環境をリセットしたい、と考えている皆さんも、生後間もない赤ちゃんの状態に戻りたいと考えている訳では無さそうです。
そうなると腸内環境をリセットするとは、正確に言えば「腸内細菌のバランスを理想的な状態に戻す」ということになりそうです。
腸内環境が良い状態とは、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3つの腸内細菌が、それぞれ20%:10%:70%の割合で存在している状態を指しています。
腸内環境が乱れ、身体のさまざまな箇所に不調をきたしている時、私たちの腸内では悪玉菌が必要以上に増殖し、相対的に善玉菌が減少してしまっているのです。
悪玉菌が増殖してしまう要因としてはさまざまなことが考えられますが、最もよくありがちなのは便秘のように大腸内部に糞便が長く留まってしまうこと。
糞便のような老廃物・腐敗物質は悪玉菌の格好のエサとなってしまい、悪玉菌の繁殖を助長してしまうのです。
こういったメカニズムを考えると、腸内環境をリセットするとは、悪玉菌の増殖要因を私たちの腸内から取り除き、悪玉菌の数を減少させ、腸内細菌のバランスを理想的なバランスに戻す、ということになりそうです。
手っ取り早く腸内環境をリセットする方法
悪玉菌が増殖して乱れてしまった腸内環境をリセットするためには、悪玉菌を取り除くことが必要ですが、実際に可能なのでしょうか?
人の糞便は、その80%は水分でできているのですが、固形分の約1/3は実は腸内細菌の死骸でできています。腸内細菌の多くは非常に短期間で生死を繰り返しており、それらが糞便として体外に排出されているのです。
この腸内細菌の生死のサイクルの中で、選択的に悪玉菌だけをある程度の量だけ死滅させて体外に排出させられれば腸内細菌のバランスをリセットできそうですが、残念ながら理想的な方法は無いようです。
ただし、悪玉菌が増殖してしまった主な要因が便秘などで、体外に排出されずに大腸内にとどまってしまっている糞便なのであれば、腸内環境をリセットする方法として以下のような方法が考えられます。
(1)断食
断食によって食事量を圧倒的に減らせば、新たに消化・吸収が必要なものが胃腸に入ってこないことになります。
このことは胃や腸を休めることにつながり、また私たちの腸は内部に残った食物の消化・吸収やその排泄に注力できることになり、最終的には便秘の解消、腸内環境のリセットにまでつながりそう。
特に、普段から深夜に夕食をとったり、毎回の食事量にバラつきがある方の場合は、胃や腸が疲れ切っていて、本来の力を発揮できていない可能性もあり、そういう方にとって断食は胃や腸を休める貴重な時間。本格的な断食までいかなくても、最近は週末だけのプチ断食などのプランも豊富なため、まずは短期間の断食から試してみる価値はありそうです。
(2)下剤・浣腸
毎日の食事は奪われたくない楽しみ!という方には断食よりも、下剤や浣腸によって強制的に糞便を体外に排出する方法が手っ取り早いリセット方法かも知れません。
市販されている下剤の多くは、腸を刺激して大腸のぜん動運動を活性化する刺激性下剤と呼ばれるものです。
注意が必要なのは下剤を常用してしまうと、腸が下剤の刺激に慣れてしまい、服用量を増やさないと下剤の効果が得られなくなってしまう点です。
下剤に対する常習性が生まれてしまい、本来の排便する力が失われてしまう可能性があるため、一時的な使用にとどめておくことが無難。
一方で浣腸は、グリセリンを薄めた液体を肛門から直接注入することで、直腸付近で硬く固まった糞便を柔らかくしたり、水分の刺激で大腸のぜん動運動を活発化して排便を促すもので、下剤よりも即効性があるのが特徴。
ただし、浣腸も常用してしまうとそれ無しでは排便できなくなるなど、下剤と同様に常習性が出てしまう恐れもあり、使用には注意が必要です。
(3)腸内洗浄
病院や医療機関で本格的に腸内環境をリセットするのであれば、腸内洗浄も1つの手法として考えられます。
腸内洗浄は、欧米ではコロンハイドロセラピーと呼ばれる療法の一種で、細い管を肛門に入れ、滅菌された蒸留水等を管を通して腸内に断続的に注入、排便を促すという療法です。糞便だけではなく、長年に渡って腸内に蓄積した宿便や腸内に溜まったさまざまな物質も洗い出されるというもので、腸内環境の改善に効果があるとされています。
腸内洗浄により、便秘の改善はもちろん、悪玉菌によって産生された有害物質や有毒なガスなども合わせて洗浄されるので、腸内環境だけでなく肌や髪質、さまざまな身体の不調のリセットにもつながりそうです。
腸内洗浄は基本的に消化器科や肛門科のある病院で実施できるものですが、市販の腸内洗浄キットもあるそう。使用にあたっては注意が必要ですが、手軽に腸内洗浄を実践できる方法として、調べてみる価値はありそうです。
でも本当に大切なのは、腸内環境を良い状態に維持すること
たとえ腸内環境をリセットできたとしても、生活習慣が変わらなければ腸内環境は再び悪化してしまう可能性も。
腸内環境をリセットできたとしても、すぐに悪化してしまってはリセット効果が台無しになってしまいます。
また、断食や下剤、浣腸によるリセット方法は何度も繰り返すことができなかったり、また繰り返すことで別の健康リスクが高まるなどの難点も。
つまり最も大切なのは、一度リセットして良くなった腸内環境をいかに維持するか、ということなのです。
遠回りだとしても、腸内環境に優しい生活習慣を1つ1つ身に付けていくことが、腸内環境を良い状態で維持するための唯一の方法であり、実は最も確実な腸内環境のリセット方法なのかも知れません。
(1)腸内環境を維持するために、食生活を見直す
腸内環境を悪化させる食事としては、動物性タンパク質や脂肪を多く含む食事、つまり肉類や揚げ物に偏った食事が挙げられます。
そのような食習慣を改善しなければ、たとえ腸内環境をリセットしたとしても残念ながら元の悪い状態に逆戻り。
腸内環境を良い状態に維持するためには、善玉菌を多く含む発酵食品や乳製品を積極的に摂取し、また排便を促すのに効果的な食物繊維を十分に摂取することが必要です。
バランスの良い食事に加えて、一日三度の食事をできるだけ毎日同じ時間帯に定期的にとることも重要で、睡眠前の夜遅くなどに夕食をとることも腸内環境には大敵。また食べ過ぎ、飲み過ぎも胃腸を疲弊させ、腸内環境を悪化させる要因となります。
リセットした腸内環境を維持するためにも、もう一度、自身の食生活を見直し、腸内環境にとって理想的な食習慣に改善していくことが重要なのです。
(2)定期的な運動習慣も必要
人は加齢や運動不足によって筋力を徐々に失っていきます。筋力、特に下腹部の腹筋力は、排便にとっても重要で、力が衰えると排便する力も低下してしまいます。
腸内環境をリセットし、理想的な食生活を送っていても、加齢や運動不足によって、再度便秘や腸内環境の悪化が引き起こされるリスクがあるのです。
このリスクを解消するには定期的な運動がどうしても必要です。通勤・通学時にできるだけ徒歩で移動する習慣を付けたり、階段を積極的に利用するなどの習慣は、筋力の低下を抑えるものとして有効。
また特に良い腸内環境を継続するには、毎日少しずつでも腹筋運動を行うことなどが効果的です。
(3)十分な睡眠をとり、ストレスをため込み過ぎない生活を!
交感神経と副交感神経からなる自律神経の働きは、大腸のぜん動運動と密接なかかわりがあります。
睡眠不足や精神的なストレスが過度にかかると、主に休息時に働く副交感神経の働きが低下してしまい、自律神経を失調、大腸の働きに支障を来たす恐れがあります。
一度リセット、改善した腸内環境を良い状態に維持するためには、自律神経をしっかりと機能させることも重要であり、そのためには睡眠を十分にとったり、身体をできるだけ緊張状態から解放させることが何よりも大切。
自分なりの休息・リラックス方法を身に付けておくこともまた、良い腸内環境を維持するための秘訣の1つになり得るのです。
腸内環境をリセットする方法、つまり腸内細菌のバランスを理想的な状態に変化させる方法をいくつかいくつかご紹介しましたが、どれも一長一短があり、それぞれ個人の状況に合わせて検討が必要そうです。
そして、いかに腸内環境をリセットするかも重要ですが、リセットした後にいかに腸内環境を良い状態で維持するかも同時に考えなければならない大切な要素。
自分に合ったリセット方法を考えつつ、健康的な生活を早く取り戻して、それを長く維持することができるよう、ご自身の生活習慣をぜひ振り返ってみてください。
この記事の筆者
腸内細菌博士
1977年生まれ。京都大学・大学院にて分子細胞生物学を専攻。腸による脂質代謝や栄養吸収を細胞レベルで研究、また腸に関連する疾患の予防、治療方法の基礎研究に従事。
ほか、腸の働きと関連性のある自律神経系や免疫システムについては、現在も米国科学雑誌等で最新研究動向をウォッチ中。現在、米国にてMBA留学中。