大腸とは?

「腸」と言えば、食物を消化し、水分や栄養分を吸収するなど、私たちの健康に重要な役割を果たしている器官であることはご存知ですよね。

それでも実際に「小腸と大腸の違いは?」「大腸の機能が低下すると何が起きる?」「大腸がんってどんながん?」などと質問されるとなかなか答えられないもの。

ここでは腸の中でも大腸に焦点を当て、大腸について徹底的に解説します!

小腸と大腸の違いって?

腸は「第二の脳」と呼ばれる、私たちの身体の中で非常に複雑でさまざまな役割を担う重要な器官。

外部から侵入してくる細菌やウィルスに抵抗するための免疫機能、あるいは感情や精神状態にかかわる神経物質の合成にも腸がかかわっているのですが、中でも最も基本的な腸の働きと言えるのが、食物の消化、栄養分の吸収、不要な老廃物の排出(排便)です。

この腸の働きは、小腸と大腸と呼ばれる2つの腸がそれぞれの役割を果たすことで実現されています。

「栄養分の吸収」に欠かせない小腸の働き

人は食事によって身体に必要な栄養を外部から摂取しています。口から入った食物はまず食道を通り、その後、胃に入ります。食物は胃の胃酸により消化されやすいようなドロッとした液状に変えられます。

そして胃を出た後に入るのが小腸です。小腸は直径約3cm、長さ数mの腸管が複雑に折りたたまれた器官で、胃に近い方から順に十二指腸、空腸、回腸に区別されます。

小腸では、胃で消化されやすい液状にされた食物と小腸にある消化液が一緒に攪拌され、食物をさらに細かく分解、栄養素を吸収しています。

小腸の腸管の内部はヒダ状になっており、栄養分を効率的に吸収できるようになっているのですが、このヒダを伸ばすとテニスコート2面分の広さにも匹敵するとのこと。

それほどの広大な面積を使って、私たちの身体は食物から効率よく栄養を摂取しようとしているのです。

「水分の吸収」「糞便を作り出すこと」が大腸の重要な役割

小腸で私たちの身体に必要な栄養分が吸収した後、多量の水分を含んだ食物は大腸へと移ってきます。大腸が担う重要な役割は、これら食物から水分を吸収、糞便を作り出し、そして糞便を体外へ排泄することです。

大腸を詳しく見ていくと、厳密には6つの部位に分けられ、小腸に近い盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸の5つの部位(これらを総称して結腸と呼ぶ)と肛門に近い直腸で構成されています。

小腸から送り出された食物は、これら大腸の器官を通過する間に水分が吸収されて固くなり、糞便に変わっていくのです。

盲腸からS状結腸までを通り抜けた糞便が直腸まで至ると神経が刺激され、直腸から肛門へと糞便が運ばれるのです。

これがいわゆる排便であり、大腸は腸の中でも特に排便に深くかかわっており、大腸の機能不全は多くの人を悩ませる「便秘」などの原因になるのです。

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腸内環境とは主に大腸内部の環境を指す!

「私たちの健康を維持するには腸内環境が大切」「腸内細菌をバランスよく保とう」といった言葉を耳にすることが多いと思うのですが、ここで言う腸内環境というのは主に大腸内部の環境を指しています。

つまり、大腸内部の状態が私たちの健康を維持するのにとても重要な役割を担っているのです。

腸内環境が悪化して大腸が本来の役割を果たせなくなると、水分の吸収や糞便を作り出すといった機能が滞り、下痢のような症状を引き起こしたり、逆に便秘など便が体内に留まったまま排便されない状態となります。

便秘により体外へ排出されない老廃物からは有害物質や有害ガスが発生し、これらは私たちの身体の腸以外の部位にもさまざまな悪影響を引き起こすのです。

健康的な大腸に必要なのは「腸内細菌のバランス」

大腸を健康的な状態にするためには、腸内環境を良い状態に維持する必要があり、それには腸内細菌が深くかかわってきます。

私たちの大腸内部には非常に多くの細菌(腸内細菌)が生息しており、その種類は数百種類、数は数十兆個から100兆個に上ると言われています。

腸内細菌はその機能から大きく3つに分類され、それぞれ善玉菌、悪玉菌、日和見菌と呼ばれています。

良い腸内環境とは、これらの腸内細菌がそれぞれ20%、10%、70%の割合で存在している状態を指し、これより悪玉菌の存在比率が高く、相対的に善玉菌が減少している場合、腸内環境は悪化していると考えられます。

大腸菌は悪い腸内細菌?

何年かに一度、流行性の感染症を引き起こす“0-157”大腸菌。耳にしたことがあると言う方も多いかと思うのですが、大腸菌のすべてがこのような病気を引き起こす悪性のものという訳ではないのです。

大腸菌は人間に限らず、さまざまな動物の消化器官にも生息する腸内細菌の1つで、細かく分類してみると実は数百種類の大腸菌が存在しているのです。

O-157などの悪質な疾患の原因となるような大腸菌は、このうちのわずか数種類。その他の大腸菌と区別して「病原性大腸菌」と言われます。

ほとんどの種類の大腸菌に常在する腸内細菌で、体外から侵入して増殖しようとする病原性大腸菌を撃退する働きがあるなど、腸内細菌としてなくてはならない存在なのです。

大腸菌は腸内細菌の中では悪玉菌に分類されますが、悪玉菌には動物性のタンパク質や脂質を分解して、栄養素を吸収する働きがあり、悪玉菌が存在しないとそれらの食物を消化できなるという問題が発生します。

これ以外にも大腸菌には不溶性食物繊維のセルロースを分解し、ビタミンを合成する働きがあり、野菜に多く含まれるセルロースは人間が持つ酵素では分解されないため、腸内細菌として大腸菌が存在しなければ消化、吸収することができなくなってしまうのです。

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大腸内部の腸内環境が乱れは、大腸の病気に罹る原因に

大腸は、食物の消化・吸収のという働きの中で重要な役割を担っており、正常に機能するには大腸内部の腸内環境や、腸内細菌の状態が非常に重要であるのはここまでの説明の通りですが、逆に腸内環境が乱れ、大腸が正常な機能を果たせなくなると、どういった問題が引き起こされるのでしょうか?

排便が上手くいかなくなる「便秘」以外にも、実はもっと重篤な疾患を引き起こすことが知られているのです。では引き起こされる病気にはどういったものがあるのでしょう。

①「大腸がん」

罹患数としても、また死亡原因としても近年増加傾向にあるのが大腸がん。

特に女性の大腸がんによる死亡が増加しており、男女の合計でも、がん死亡の原因として肺がん、胃がんに次いで3番目に多いのがこの大腸がんです。

大腸がんが急速に増えたことの背景の1つとして考えられるのが、食生活の欧米化、特に動物性タンパク質や動物性脂肪の摂取量の増加です。

これらの動物性の食物を消化するために、脂肪の消化酵素である胆汁酸の分泌量が増加しており、腸の内部が長時間胆汁酸に触れることになり、これが大腸粘膜の細胞の遺伝子を傷つけてがん化させてしまうのではないかと考えられています。

また同様に、動物性の食物は胃腸で消化されにくく、消化に時間がかかるため、便が腸内に留まる時間が長くなります。

これらの便は腸内細菌のうち悪玉菌の繁殖を促し、腸内環境を悪化させることが分かっており、こういった腸内環境の乱れもまた大腸がんのリスクを高めると考えられています。

また最近では、腸内環境の乱れは脂肪分の消化・吸収にも悪影響を及ぼすことから、肥満やメタボリックシンドロームの罹患にも大腸内部の状態が関与していることが分かってきています。

②「うつ病」

身体的な健康だけでなく、大腸の乱れは精神的な健康にも影響を及ぼします。これは大腸で脳内ホルモンの1つであるセロトニンと呼ばれる物質が産生されているためです。

神経伝達物質の1つであるセロトニンは、幸福感や安心感と言った精神状態と深く関連がある神経物質で、このセロトニンの分泌が減少すると幸せな気分や満足感を感じにくくなり、重篤化するとうつ病などの精神病にまで発展する可能性があります。

腸内環境の乱れはセロトニンの生産にも影響するので、大腸のケアを怠ることは精神的な病を引き起こすことに繋がりかねないのです。

また、腸内環境は交感神経や副交感神経といった自律神経にも密接に作用しているため、身体疲労や睡眠不足により自律神経の働きが悪化すると腸の働きも低下、腸内環境が悪化することになります。

疲れがセロトニンの減少を引き起こし、疲労感をさらに高めてしまい、結果的に気分がすぐれない状態からなかなか抜け出すことができないといった悪循環に陥る可能性もあります。

③「肌荒れ」「アトピー」

大腸の機能低下は腸や消化活動だけでなく、肌や髪質、体臭などにも影響を与えます。

これは大腸内部の環境悪化により、腸内細菌のうち善玉菌の割合が減り、反対に悪玉菌が繁殖して増えるため、アンモニアやフェノールといった有害ガスや有害物質が大量に生み出されてしまうためです。

大腸内部で発生した有害ガスや有害物質は血流に乗って身体全体に拡がってしまい、そのうち皮膚や頭皮にまで至った物質が肌荒れやアトピーなどの吹き出物、悪臭などを発生させるのです。

また腸内環境の悪化は免疫力の低下を引き起こし、細菌やウィルスへの抵抗力を低下させるため、アトピーなどの炎症が発生しやすい状態になると言えます。

このように大腸は、食物や栄養素の吸収を担う腸の一部でありながら、免疫系や脳内神経ホルモンの生産にかかわるなど、私たちの身体の臓器の中でも非常に多岐に渡る機能を担う器官と言えます。

大腸の働きを正しく理解して、腸内環境や腸内細菌のバランスに注意しながら、健康的な毎日を送りたいですね。

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この記事の筆者

腸内細菌博士
1977年生まれ。京都大学・大学院にて分子細胞生物学を専攻。腸による脂質代謝や栄養吸収を細胞レベルで研究、また腸に関連する疾患の予防、治療方法の基礎研究に従事。

ほか、腸の働きと関連性のある自律神経系や免疫システムについては、現在も米国科学雑誌等で最新研究動向をウォッチ中。現在、米国にてMBA留学中。

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