大腸菌とは
数年に一度、ニュースでも取り上げられるほどの流行性の感染症を引き起こす「0-157大腸菌」。みなさんも一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか?
大腸菌と聞くと、なんとなく”バイ菌”のようなもの、食中毒などの病気を引き起こすものと連想される方も多いかも知れません。
ところが実は、この大腸菌、本来は無害で常時私たちの腸内に生息しているもので、O-157のような感染症を引き起こす大腸菌はむしろ少数派なのです。
ここでは、私たちのカラダの中で、大腸菌がどんな役割を果たしているのか見ていってみましょう。
本来は無害!腸内細菌の一つである大腸菌
大腸菌は動物の消化器官に生息する細菌の一つで、健康な人の腸内にも生息する腸内細菌の一つです。
一言で大腸菌と言っても、実際には数百種類の大腸菌が存在し、O-157などの感染症を引き起こす大腸菌は、このうちのほんの数種類なのです。
これら、病気を引きこす大腸菌は他の大腸菌と区別して「病原性大腸菌」と呼ばれており、感染すると下痢や腹痛を引き起こすほか、ひどい場合は「腸管出血性大腸炎」などの疾患につながります。
病原性大腸菌以外の良性の大腸菌には、体外から侵入してくる病原性大腸菌の増殖を防ぐ働き(拮抗(きっこう)作用)があり、私たちの腸内細菌としてなくてはならないのが大腸菌なのです。
大腸菌は腸内細菌の一つ「悪玉菌」
私たち腸内に数多く生息する「腸内細菌」ですが、主な役割や身体に与える影響により、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の三つに分類されます。
またそれぞれの菌が20%、10%、70%という割合で存在している状態が、いわゆる「良い腸内環境」になっている状態です。
悪玉菌と聞くと「何か病気などを引き起こすもの」と思われがちですが、悪玉菌がまったく存在しなくなると別の問題を引き起こすことになり、私たちの健康な身体には無くてはならいものなのです。
悪玉菌には肉類を分解して、その栄養素を吸収する働きがあり、副産物として悪臭の元などを作るものの、悪玉菌が存在しなければ肉類のたんぱく質を消化できなくなってしまうのです。この悪玉菌の代表的な菌が大腸菌なのです。
また、大腸菌には不溶性食物繊維のセルロースを分解し、ビタミンを合成する働きがあります。野菜に多く含まれるセルロースは、人間の体内で生成する酵素では分解することができないため、大腸菌が腸内に存在しなければ消化・吸収することができないのです。
注意したい「病原性大腸菌」
私たちの腸内に存在する大腸菌が、私たちの健康にとって無くてはならない働きをしている必要不可欠な菌なのですが、注意が必要なのは「病原性大腸菌」。
私たちの身体にとっては危険な「病原性大腸菌」は、感染すると時に重篤な症状を引き起こします。感染時の症状の違いから、病原性大腸菌は以下の五つに分類されています。
1,腸管病原性大腸菌
小腸に感染して腸炎等を引き起こす。
2,腸管組織侵入性大腸菌
大腸や結腸にある粘膜上皮細胞に侵入し、増殖することで、赤痢のような症状を引き起こす。
3,腸管毒素原性大腸菌
小腸上部に感染し、腹痛と水様性の下痢を引き起こす。
4,腸管出血性大腸菌
「ベロ毒素」と呼ばれる毒素を産生、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を引き起こし、特に小児や老人では、溶血性尿毒症や脳症を引き起こす。
近年、食中毒等の感染症を引き起こすことのあるO-157は、この種の大腸菌に分類されます。
5,腸管凝集性大腸菌
主として熱帯の途上国に住む小児に下痢等の症状を引き起こす。
どの種類の病原性大腸菌であっても、特に小児など免疫抵抗力が低い場合は、重篤な疾患につながりかねないため、注意が必要です。
このような病原性大腸菌に感染しないためには、具体的にどんな点に気をつければよいのでしょうか?
「病原性大腸菌」への感染を防ぐ三つのポイント
とにかく食品を衛生的に扱い、菌が増殖しないように注意することが重要です。
1.食品は新鮮なものを購入し、冷蔵または冷凍で保存しましょう
肉や魚、野菜などの生鮮食品はできるだけ鮮度の良いものを購入するように心がけることが重要です。消費期限の表示がある食品であれば、必ずチェックするようにしましょう。
また購入後はできるだけ早く冷蔵庫や冷凍庫へ。特に、夏場など気温が高い時に長時間食品を放置することは、菌の増殖を促すため注意が必要です。
2.調理器具や食器は必ず清潔なものを使用しましょう
調理を始める前に、一度台所を見渡してみることが重要。ゴミが残っていないか、タオルやふきんが乾いた清潔なものになっているか、などキッチンの衛生状態を常に確認しておくことが大切です。
また調理中も、こまめに調理器具を洗う習慣をつけると効果的。例えば、肉や魚を切った後の包丁やまな板をそのまま洗わずに、ほかの生で食べる食品を切ったり、加熱調理後の食材を切ったりすることは絶対に避けたいことの一つです。
3.食事の前には手を洗って、速やかに食事を
せっかく注意して調理したとしても、清潔でない手で食事をとる、または、調理した料理を放置してしまっては意味がありません。
必ず清潔な手で、調理後、速やかに食事をとることが重要です。例えば、O-157は15~20分室温で放置すると2倍に増殖するそうです。