腸内環境と水の関係
私たち人間の身体は、その60%以上が水分。だからこそ、水分不足は身体にさまざまな変調を来たすのです。腸内環境も例外ではありません。
腸内環境の良し悪しと水分摂取量には深い関連性があります。ですので、腸内環境を良い状態に保つためには、水をどう摂取するかが非常に重要です。
どのような注意が水分補給で必要なのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
腸内環境と水・水分摂取の関係性
腸内環境とは特に大腸内部の環境を指し、腸内環境の乱れ、つまり大腸の働きが乱れると、便秘や肌荒れ、うつ病のような症状など身体にさまざまな悪影響を及ぼします。
つまり腸内環境を良い状態に保ち、大腸の正常な働きを維持することは、私たちの健康な生活に欠かせないものなのです。
消化器官の一つとして、大腸の最も大切な働きは水分の吸収です。食事などを通して口から摂取された食物は、胃や小腸で消化、栄養素が吸収された後、大腸で水分が吸収され、残りが便となって体外に排泄されます。
仮に水分の摂取量が極端に多くなると大腸で吸収可能な水分量を上回ってしまい、便は水分を多く含んだ軟便、もしくは下痢の状態となってしまいます。
反対に、水分の補給量が大きく減少した場合、大腸で水分を吸収した後の便は、水分が少なくて硬く、排泄されにくい便秘のような状態となってしまいます。
腸内環境を悪化させるのがこの便秘のような状態で、大腸内に便が長くとどまることで悪玉菌が増殖、腸内細菌のバランスを崩してしまうのです。
したがって、毎日、水分を適量摂取し続けないと、腸内環境を悪化させたり、それが原因となって体調不良などを引き起こしかねないのです。便秘に悩まれている方は、水分の摂取不足が原因であることが多いのです。
水道の水をとにかくたっぷり飲む、ではダメ
人の理想的な水分摂取量は1日あたり1l〜2lと言われていますが、水道の水をとにかく飲めば良いのでしょうか?答えはNOです。
浄水場では水を浄化するために塩素を用いており、したがって水道水には塩素が多分に含まれています。この塩素が腸内環境にとって良くないのです。
塩素には殺菌力があり、これが有害菌の除去に効果を発揮するのですが、これが腸内に入ってくると腸内細菌まで死滅させてしまう恐れがあるのです。
腸内細菌の数の減少は、腸内での消化、吸収など腸の働きを弱めてしまうため、腸内環境の維持・改善という意味では逆効果。つまり、いくら水分摂取が重要だからと言って、水なら何でも良いというものではないのです。
どんな水分摂取が腸内環境に良いのか?
飲みやすいからと言って、水ではなくコーヒーな緑茶で水分摂取しようという方もいらっしゃるかも知れません。
ところが、これらの茶類には利尿作用があり、飲んでも私たち体内に蓄えられる水分量が意外と少なかったり、排尿のためにかえって体内の水の量が減ってしまうといったことも起こり得るため注意が必要。
逆に同じ茶類でもノンカフェインで利尿作用が少ない麦茶等は、水と同様、水分補給の効果があると考えらるためおすすめです。
また毎日1l〜2lの理想的な水分摂取量を、短時間で一気に摂取することも逆効果。朝、昼、晩などに分け、できるだけ分散させて、コマメに水分を補給する方が効果的です。
この際、あまりに冷たい水や麦茶を飲んでしまうと、身体を冷やしたり、腸の働きを抑制してしまうといった悪影響も出てきます。同じ水分補給でも、常温の水あるいは白湯のほうが、腸内環境に優しい水分と言えるのです。
腸内環境に効果的な水の種類
同じ量の水分を補給するなら、できるだけ健康に良いものや腸内環境の改善に高い効果があるものを選びたいもの。ここでは3つの効果的な水をご紹介します。
(1)ミネラルウォーター
ミネラルウオーターとは、ミネラル分(ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウム等)を含む水の総称です。
これらのミネラル分には腸の働きを高める効果があるため、腸内環境の改善のためにミネラルウォーターを積極的に飲むことは良いことです。
例えば、ミネラル分のうちカリウムには筋肉や消化器官の作用を強化する働きがあり、排便を促進、腸内環境を良い状態に保つ効果を期待できます。
またマグネシウムには糞便中の水分量を高める“保水”効果があり、便を柔らかくすることでこちらも排便を促す効果を期待できるのです。
必ず知っておきたいのは、ミネラルウオーターの製品や、硬水・軟水によりカリウムやマグネシウムといったミネラル分の含有量が異なること。
日本人が慣れ親しんでいるのは軟水ですが、硬水と比べミネラル分が少なく、飲みやすいものの腸内環境への効果は限定的。
硬水は重たく、苦みも感じる方もいらっしゃいますが、ミネラル分が豊富で、より高い腸内環境の改善効果を期待できます。
いずれにせよ、水分を補給しつつ、かつミネラルも摂取することは、腸にとって良いことづくしなのです。また水道の水と比較してミネラルウオーターには塩素がほとんど含まれない点で、健康リスクが少ない点も利点の1つです。
(2)炭酸水
ここで言う炭酸水とは、糖分を一切含まない水と二酸化炭素のみを成分とした炭酸飲料のことです。
特にヨーロッパでは水と言えば炭酸水で、炭酸を含まない水の方が珍しいという国もあります。この炭酸水にもさまざまな効能があるのですが、1つは疲労回復。
これは炭酸水に含まれる二酸化炭素が血中に吸収されて血中の二酸化炭素濃度が上がると、身体が酸素不足と感じ、血液循環が促進されてより多くの酸素を取り込もうとするから。
新陳代謝も促進され、老廃物が排出されやすくなるといった作用はすべて疲労回復に繋がります。スポーツ選手の中に炭酸水を好んで飲む選手がいるのはこのためです。
炭酸水のもう1つの効能は便秘解消。血流が活性化されるために、胃腸の働きも活性化、大腸のぜん動運動も活発になるため、排便促進の効果を期待できます。
これにより、便秘を解消、あるいは予防しだり、腸内環境の改善につながるのです。
(3)水素水
最近さまざまなメディアを通して取り上げられることが多い水素水ですが、水素水とは、一般に通常の水と比較して高濃度で水素分子を含有している水を指します。
この水の中にある水素が、血中の活性酸素を除去する効果があるということで注目を集めています。
活性酸素とは、体内で自然に産生される物質で普段から一定量存在するものの、量が増えると体内の正常な細胞を攻撃するなどして老化現象を引き起こす原因となる物質です。
水素水に含まれる水素がこれらの活性酸素と結合することで、過剰に産生された活性酸素の量を減少させる効果があり、水素水には老化防止や美肌効果などがあるとされているのはこのためです。
もちろん、腸内環境にとっても水素水には効果的な働きがあります。活性酸素には腸内細菌である悪玉菌を増殖させる働きがあるため、活性酸素の増加を放置しておくと腸内環境が悪化する恐れがあります。
水素水の摂取によって活性酸素量を低下させられれば、このリスクを抑えられると考えられます。
また、水素水には新陳代謝を促進、体内の老廃物を排出しようとするデトックス効果があり、これも腸内環境の改善に結びつく効果です。
水素水は腸内環境にも効果的ですが、血中の活性酸素量が極端に増えないように、普段からバランスの良い食生活、定期的な運動習慣等を心がけていれば不要とも言えます。
生活リズムが乱れて血中の活性酸素量が増えてしまい、その結果腸内環境のバランスも悪くなった、という方にはこの水素水が効果を発揮すると言えるでしょう。
ひとくちに「水」といっても、さまざまな種類の水があり、それぞれの効能が異なっていたり、また腸内環境に優しい水の飲み方があること、ご理解いただけたでしょうか?
いずれにせよ、腸内環境を良い状態に保つためには、水との上手な付き合い方、上手な水分摂取方法を身に付けることが重要。これを機会に、あなたの水に対する生活習慣を見直してみませんか?
この記事の筆者
腸内細菌博士
1977年生まれ。京都大学・大学院にて分子細胞生物学を専攻。腸による脂質代謝や栄養吸収を細胞レベルで研究、また腸に関連する疾患の予防、治療方法の基礎研究に従事。
ほか、腸の働きと関連性のある自律神経系や免疫システムについては、現在も米国科学雑誌等で最新研究動向をウォッチ中。現在、米国にてMBA留学中。