完治に6年かかった、「過敏性腸症候群」との闘い
- 体験者の情報
- 名前:紅林 誠(仮名)
年齢:25歳
性別:男性
病気歴:7年2カ月
職業:介護職
過敏性腸症候群のタイプ:下痢型
記事の目次
高校2年生で過敏性腸症候群発症
子供の時から便秘や下痢を繰り返した私でしたが、高校2年生のゴールデンウィーク明けの腹痛は常軌を逸していました。
下痢でトイレに駆け込んだ10分後にまた腹痛。もうお腹の中身は空っぽなのにまだ下痢の症状がありました。一番の苦痛は、その腹痛が授業中・通学中を無視していきなり現れることでした。
授業・通学中の頭の中は腹痛一色
下痢の腹痛を体験された方には分かると思いますが、あまりにも耐えがたい苦痛です。お腹の内部で起きる痛みですから、抗いようのない痛みが思考を奪い去ります。
痛みが治まることをトイレの神様に祈った時代もありました、その最中に英語・数学の会話文や数式は当然頭に入るわけもなく、もはや勉強どころではありませんでした。
家に帰ってから復習あるいは予習をしなければ、授業に付いていくことすらままならなかったのです。
私の通学手段は約20分の電車でした。短い時間ではありましたが、乗車する度に強烈な便意と腹痛が襲い掛かります。各駅停車をする度に「早く進んで!」と御祈りをする日々が続きました。
こんなに苦労して授業・通学を終えると、さっきまでの痛みが嘘のように消えているのです。ですから、当時私の病気を理解してくれる人はあまりいませんでした。
なぜなら常に話をしている時はぴんぴんして、緊張する時だけ腹痛になるのは、ある意味当たり前のことです。そして、その緊張を理由にその場を離れる行為は、ある意味逃げていると思われていたかもしれません。
ストレスという誰しもが立ち向かう場面で、私はただの腹痛で諦めてしまう。勉強も仕事もそして夢も、腹痛によって駄目にされてしまう。
そう考えた時「これからどうやって社会で生きていけばいいんだ」という恐怖が頭を離れませんでした。
もし私に運があるとすれば、その症状がすでに病院で「過敏性腸症候群」として認知されていたことでしょう。ただ治療は6年続き、完治する頃には、私は社会人になっていました。
今回、私のIBSに纏わる体験談をご紹介して少しでも皆さんの役立てればと思います。
テストの結果でしか自分を評価できなくなった
高校時代に発症した過敏性腸症候群の原因は、学生生活が大きく影響していました。勉強・先生との折り合いをうまく付けられない結果、私はストレス性の腹痛を発症したのです。
私が勉強で感じたストレスとは、ずばり学歴社会から起因するものでした。
センター試験の結果が人生を大きく左右する時代ですから、ただのペーパーテストにも己の人生を掛けます。その中で良い点数を取り続けた私は、ある種の恐怖感を覚えました。
それはテストの結果が悪かった時、「自分が自分でない」気がしたのです。簡単に言うと、テストが取れて頭の良い自分以外、自分自身を認めないということです。これは自分自身で勝手に思い込んだだけです。
しかし、良い結果を求められ続けた学生時代、テストだけが自分を評価し認めてくれる相手でした。
誰かに弱音を見せたくない強がりがあったため、うまくストレスコントロールができない状況を自ら作ったのかもしれません。
生徒の期待に応えた担任指導にぐったり
私の場合は担任の先生と折り合いが悪かったことが、一番のIBS発症の原因でした。当時、先生と私にはある種の主従関係が存在していました。
良き生徒であり続ける私と、それを導く教師という関係は、傍から見てれば羨ましいと思われるかもしれません。しかし、良き生徒であり続けようとするあまり、先生に怒られてはいけないという恐怖観念が頭から離れませんでした。
担任の先生も、その期待に応えるように厳しく指導します。
本当は授業中に寝たい、あるいは無視しながら別の事を考えたいと思うのですが、常に生徒の見本にならなければ、自分という存在が保てないと、上記の勉強の中で考えるようになりました。
良き生徒という固定観念に縛られた私の行動が、生徒の期待に応える厳しい指導へと繋がり、もはや誰にも止めてもらえない状態になりました。学校の門を潜ると、常に担任に監視される意識まであったのです。
教師の善意ある指導は、私に恐怖だけを残してしまったのです。
電車の中では常に安静に過ごした
私はIBS発症初期からIBS専用のお薬「イリボー」を処方してもらうことができました。イリボーによって強烈な腹痛は治まり、電車に乗る恐怖は払拭されました。
しかし、乗車中に別の作業(読書など)をするといった負担を掛けるだけで、私のお腹はたちまち痛みを訴えました。
過敏性と名前が付くように、外部の環境や自分自身の行動に過剰反応をしてしまうため、意識を常に遠くの景色に移すように努めていました。
また、音楽を聴くことでも意識を逸らすことができました。とにかく意識が散漫になるような環境を整えました。少し変なイメージですが、「お腹が痛くなるかも?」と不安に思ったらアウトなのです。
もちろん「お腹」というイメージも駄目です。不安な連想ゲームに陥ってしまうため楽しいことだけ考えていました。
トイレに行けないと自分で決めつけない
傍から見ている人は、腹痛で悩んでいる人がいれば、「トイレに行けばいいのに」と簡単に思うでしょう。しかし、人前で下痢だと主張しながらトイレに行くのは、非常に恥ずかしいです。
これが休み時間などの自由なら良かったのですが、普段はトイレに行かない時間に席を立つことで、下痢でもう漏れてしまうことを皆に伝えているのです。それがすごく見っともないと自分の中で恥じていました。
この認識のせいで、相手が思っている以上にトイレに行くことへの抵抗を生んでしましました。
結果、自らトイレに行けない状態を作り、トイレに行ける場所でも緊張してお腹を痛めてしまうことになりました。
この壁を少しでも取り除くには、やはり自らトイレに行きやすい環境を整えることが大切です。私はいかに病気で悩んでいるかを相手に説得することで、自分が感じていた「恥ずかしさ」を払拭しました。
実は「IBSなんです」と略称で言えば、「何か大変な病気なんだ。気を使ってあげよう」と思ってくれます。逆に、「なるほど、過敏性腸症候群なんだね」と知っていればこれほど話が分かる人はいません。
とにかくじっと我慢するのは、便秘・下痢の時のように体に悪いです。はっきりと相手に自分の気持ちを伝えることが大事です。
IBSは時間が解決してくれる
私がIBSの薬を飲まなくなったのは、介護へ就職したことがきっかけでした。老人ホームの利用者を世話する中で、「トイレに行くのが恥ずかしい」という意識が薄れてきました。
排便のお手伝いをする中で、自分でトイレに行くことが出来ない惨めさを訴える人がいました。それに比べたら、痛くなったら自分でトイレに駆け込むことができる自分は、なんて恵まれた環境にあるんだと思うようになりました。
また、利用者の転倒を監視するために、常に利用者に意識が移っていくことも、IBSの不安を忘れさせる要因になったと思います。
実は、自分が思っているほど、腹痛で席を外すことはそんなに恥ずかしいことではありません。お腹が痛くなることは誰にでもあります。敢えて言えば、トイレに行かない人も、うんちを出さない人もいないわけです。
過敏性腸症候群は、緊張で腸が過敏になる病気ではありますが、自らトイレに行くことに「過敏」になっていることも事実です。下痢・便秘のことを考えるよりも、楽しい明日のことを考えてみてはいかがでしょうか?
この記事の筆者
紅林 誠(仮名)
1991年生まれ。
高校2年生頃からIBSを発症し、大学時代は講義室の出口で授業を受けるほど下痢に悩まれた過去を持つ。就職活動に悩み地元の介護職に就職を果たす中で、他人の視線ばかり気にしていた自分に気付く。次第に病気に対する意識が変わり、IBSの症状が治まった経験を基に、ストレス性腹痛に対する記事作成を行っている。